たのしい人生

コミケ出展告知とつくってるキーボードの話こと「ガスケットマウントやフレックスカットによる打鍵感の改善のメカニズム」の話と今年の振り返り

この記事は キーボード #1 Advent Calendar 2023 - Adventar 2023https://adventar.org/calendars/8789 23 日目の記事です。

adventar.org

22 日は ai03 さんの Altair (-X) の裏話 | Built with Notion 、24 日は m.ki さんの 36キーで事足りますか(その後) #自作キーボード - Qiita でした。

まず簡単に告知です。コミケ C103 2 日目の 12/31 (日) 東 U30b にサークル「kabesa*」として出展します。

技術とイラストのサークルとして第 3 号、「kabesa* vol.03」を発刊します

AI イラスト生成によるゆっくり形式の解説コンテンツとそれをつくるためのアダプター学習の話やモノクロフィルム現像写真集、短編小説、マンガ等引き続きざっくばらんな内容になっています。私は編集・デザインを担当しましたが今回は記事なしです…

フォト栞

作者: azami_86e40
予価: 1 部 300 円
作者コメント: SIGMA fpのマルチアスペクトから21:9を選択し、掛け軸や栞に見立てて楽しもうというものの一環です。それぞれの写真は、切り出して文庫本用の栞として使うことができます!

マンガ

作者: タイビィ
予価: 1 部 200 円
本誌上で講評を受けている原作マンガです。

ガスケットマウントやフレックスカットは打鍵感を改善するか?

ここからが本題。

概ね キーボードの内部マウント方式一覧 - Self-Made Keyboards in Japan の簡単な解説・考察です。

最近の打鍵感の注目点

最近の打鍵感の注目点、特に今回注目するマウントプレート・ケースについては「柔らかさ」「均一性」が 2 大トピックであると思います。そもそも「柔らかさ」が重要なのかどうか等の議論は一旦後半に置いておいて、この 2 つのトピックについてどのようなアプローチがありうるのか、また最新の事情はどうなのかについて見てみます。

まず「柔らかさ」に関して導入され現在も強い人気を誇っているマウント方式であるガスケットマウントやリーフスプリングマウントについて、その物理的特性を考えてみます。

上記の写真はガスケットマウントのはしりであり比較的低価格で日本でも人気を博した Polaris のガスケットマウント部分の写真です。キースイッチを支えるマウントプレートをケースに直接固定するのではなくクッション性のあるスポンジ状のクッション材によって挟み込むようにして固定することで、見ての通り柔らかな打鍵感を実現しようという設計です。

同様にこのクッション材を板バネに変更したのがリーフスプリングマウントです。名前のとおりですね。

いずれのマウント方法も底打ち時にマウントプレートが衝撃を吸収するように動くことで「柔らかさ」を実現しています。キーボードの宣伝としてわざわざキースイッチを強く押し込んでキースイッチが沈む様子を動画に撮るなど、マーケティング上のバズワード的な要素にすらなっています。

では、ガスケットマウント・リーフマウントは実際底打ち時にどのように振る舞うでしょうか?

ガスケットマウント・リーフマウントの「柔らかさ」を位置の関数として考える

基本的には lunar0 さんの以下 post の内容です。

ガスケットマウントを側面からの断面の 1 次元で考えます。マウントプレートは一旦剛体として歪まないものとします。「柔らかさ」は実質的にばね定数であると考えて、この構造の位置ごとのばね定数を求めてみましょう。

上に想定する環境を図示しました。マウントプレートのある位置  x_0 に力  F_{x_0} を加えているとします。それぞれのクッションやバネの反発力が  V_0 V_1 です。

ここでそれぞれのクッションについて独立に考えることにして下図のように片方を固定して考えます。

ここでモーメントの釣り合い (テコの原理と捉えてもよい) から

 \displaystyle
F_{x_0} x_0 + V_1 l = 0


ここで変位量を  \delta y とすると、ばね定数は  k = \delta V / \delta y なので

 \displaystyle \begin{align}
V_1 &= k_1 \delta y_l \\
F_{x_0} &= k_{x_0} \delta y_{x_0} \\
\delta y_{x_0} &= \frac{\delta y_l x_0}{l}
\end{align}


以上の関係から

 \displaystyle \begin{align}
k_{x_0} \delta y_{x_0} - k_1 \delta y_l l &= 0 \\
k_{x_0} \delta y_l \frac{x_0^2}{l} - k_1 \delta y_l l &= 0
\end{align}


これを右側を固定した場合も同様に考えて、左端を固定した場合の位置  x_0 におけるばね定数を  k_{x_0 1} 、右端を固定した場合の位置  x_0 におけるばね定数を  k_{x_0 2} 、どちらのクッションのばね定数も等しく  k とすると

 \displaystyle \begin{align}
k_{x_0 1} &= \frac{k l^2}{x_0^2} \\
k_{x_0 2} &= \frac{k l^2}{(l-x_0)^2} \\
\end{align}


ここで位置  x_0 における変位  \delta y_{x_0} を考えると、それぞれ左端・右端を固定した場合のばね定数  k_{x_0 1} k_{x_0 2} を用いて

 \displaystyle \begin{align}
\delta y_{x_0} &= \left(\frac{1}{k_{x_0 1}} + \frac{1}{k_{x_0 2}} \right)F \\
&= \left(\frac{x_0^2}{k l^2} + \frac{(l-x)^2}{k l^2}\right)F \\
\end{align}


ここから位置  x_0 におけるばね定数  k_{x_0}

 \displaystyle \begin{align}
k_{x_0} &= \frac{1}{\left( \frac{x_0^2 + (l-x_0)^2}{kl^2} \right)} \\
&= \frac{k l^2}{2x_0^2 - 2 l x_0 + l^2}
\end{align}


となり、位置  x_0 におけるばね定数  k_{x_0} x_0 の関数であることが示されました。

両端のガスケットのばね定数  k に対して、中心部ではばね定数が 2 倍になっている = 2 倍硬く(?) なっていることがわかります。なんとガスケットマウントはそのまま使うと「均一性」を損なってしまうのです。また周辺部のほうが柔らかいというのは人によっては直観に反するのではないでしょうか?

ガスケットマウントで「均一性」を回復する

上記のようにガスケットマウントは「柔らかさ」は導入できるものの打鍵感の不均一性も同時に導入してしまうということがわかりました。

では、ガスケットマウント・リーフスプリングマウントで損なわれた「均一性」を回復するにはどうしたらいいでしょうか?

上記の議論では簡単のためにマウントプレートを剛体として扱いました。ですが現実的には皆さん御存知の通りマウントプレートは多少柔らかくしなります。そしてこのしなりによる変位は直観どおりに固定点から遠いほど大きくなります。すなわち中央ほどやわらかくなります。

ここでわかる通り、ガスケットマウント・リーフスプリングマウントはそのまま使うと中心部が固くなってしましますが、マウントプレートは逆に中心ほど柔らかくなるので、これらを組み合わせれば均一性を回復できそうです。

おそらくこの問題と解決法にいち早く気づいていたのが、ガスケットマウント・リーフスプリングマウントを導入しカスタムキーボードに「柔らかい打鍵感」という観念を与え、マウントプレートにフレックスカットも同時に導入した、IRON シリーズのデザイナ「Smith and Rune」だと思われます。

geekhack.org

IRON165 は 2019 年に GB が行われた、リーフスプリングマウントを採用した最古参と思われるキーボードです。この geekhack の GB ページに Optimized Plate, the Process, and FEA analysis という章があり、ここで有限要素法によるスイッチ押下時のマウントプレートの場所ごとの変位量解析のレポートが含まれています。

https://geekhack.org/index.php?topic=101470.0 より引用

当時は「オーバーなアプローチだなぁ。しかも静的解析だとどの程度有効なんだろう?」などと愚かなことを思っていましたが、Smith and Rune はおそらくガスケット・リーフスプリングの導入で中心部が固くなる問題に気づき、同時にフレックスカットを導入することでマウントプレートを柔らかくし、全体として「柔らかく」かつ「均一性」のある打鍵感を目指していたことが想定されます。

その後、リーフスプリングマウントおよびガスケットマウントはあっという間にバズワード化しあらゆるキーボードがガスケットマウントと吸音フォームを採用したことは現状を見れば明らかですが、上で議論した通りガスケットマウント・リーフスプリングマウントおよびフレックスカットの導入は精緻な計画に基づく設計の調整が必要とされる複雑なプロセスであり、残念ながらこれらの設計要素を単に導入しただけでは打鍵感の向上に繋がるかどうかはなんとも言えなさそうです。

特に吸音フォームをマウントプレートと PCB の間にテンションを掛けて詰める設計などは、マウントプレートの柔軟性を損ない、ガスケットマウントの打鍵感の不均一性を強調してしまうおそれがあります。同様に一時期 Mode Designs が採用し、現在は採用されていない Stack Mount もマウントプレートの柔軟性を損なう可能性が高く、計算上ガスケットマウント以上に中央が硬くなってしまいます。面で支えるほうが均一になりそうなのに意外ですよね。

実際このような設計の難しさからか、最新のカスタムキーボードのトレンドは「トップマウント回帰」「脱フレックスカット」です。大手メーカーでなく、趣味としてカスタムキーボードを追求している設計者および購入者たちは、ガスケットマウント・リーフスプリングマウント等の柔軟な機構が、設計に過度の複雑性をもたらしていると考え始めている可能性があります。

情報を食べていないか?

個人的な反省なのですが、今年 無線キーボードランキング 打ち心地のとりこになる名機10選 - 日本経済新聞 にレビュワーとして参加させていただいた際、LogicoolFILCOREALFORCE や HHKB に混じって Keychron 製のキーボードが複数ノミネートされていました。Keychron といえば皆さんご存知かと思いますが、新進気鋭のメカニカルキーボードメーカーで、最近は Keychron Q シリーズといういわゆる自作キーボード / カスタムキーボード的な製品を次々とリリースしています。

Keychron Q シリーズの基本的な設計として

  • アルミ削り出しケース
  • ガスケットマウント
  • 多くの吸音フォーム
  • QMK 対応

という、モダンなカスタムキーボードの要素てんこ盛りという感じです。恥ずかしながら Keychron Q シリーズについて私は今まで触る機会がなく、なんとなく「これだけモダンなカスタムキーボードの設計を取り入れてるから打鍵感はそれなりにいいだろうな」と思っていました。

そんな Keychron Q シリーズが上記品評ランキングにノミネートされていたため、これはさすがに Keychron が勝ってしまうだろうなぁという予断を持っていたのですが、実際に品評会でそれぞれのキーボードを触りそれなりの文章量を入力してみた結果、個人的には Keychron Q シリーズのキーボードよりも「FILCO Majestouch Convertible 3」等の歴史あるメーカーによるキーボードの方が打鍵感がよく感じました。もちろん打鍵音等に関しては Majestouch Convertible 3 はバネ鳴りも筐体の金属音の残響も大きく、モダンなカスタムキーボードの観点からすれば厳しい評価をせざるを得ないのですが、それでもなお Majestouch Convertible 3 の方が個人的には心地よく打鍵できたんですよね (平等のために書くと Keychron Q シリーズも思ったよりは打鍵音もよくなかった)。

理由が語れるほど長く触って比較することもできなかったのでこれ以上の詳細については踏み入りませんが、この一件に関しては、再三「キーボードは触ってみないとわからない」と自ら言っていたにも関わらず、設計の情報から勝手に打鍵感を予想してしまっていたことをいたく恥じ入りました。同時に歴史あるメーカーの設計ノウハウの凄みを身をもって感じることができました。具体的な違いは言語化できていないものの、キーキャップの仕上げや材質、キーボードのチルト角、筐体の剛性、今思えば打鍵感の均一性など、微妙な組み合わせによってきちんと気持ちよい打鍵感が研究されているのだなと感心しました。

最近では HHKB Studio の内部構造が特に吸音フォーム等もなく非常にシンプルであるということも話題になりましたが、HHKB Studio はキースイッチとケース・マウントプレート、キーキャップ等の総合的な設計によってまるで静電容量無接点スイッチの HHKB Professional シリーズを思わせる、見方によってはより高品質の打鍵音と打鍵感を実現していました。それで十分素晴らしいですし、設計要素は手段であって目的ではないということは肝に銘じておきたいところです。ほしいのは「よいキーボード」であって、ガスケットマウントや吸音フォームではなかったはずです。

このような貴重な機会に恵まれなければ、某ラーメン評論家の言う通り「情報を食べて」しまっていたと反省しています。

www.youtube.com 反省を促す教訓動画

じゃあどうするか?

ガスケットマウント・リーフスプリングマウント、フレックスカット等柔らかいマウントプレートの組み合わせの設計が難しいということはこうしてよーくわかりました。ただ問題点だけ指摘して投げっぱなしというのもアレなので現在これを改善できる設計ができないか検討中です。

上記の柔軟性の導入に対する不均一性付随の問題の肝は、ばね定数の導出でも用いた回転方向モーメントの存在です。マウントプレートが押下に合わせて回転してしまうことが問題なのです。すなわち マウントプレートが常に回転せず平行に移動する 限り、マウントを柔らかくしても打鍵の均一性を犠牲にせずにすみます。そしてこの平行移動機構、キーボードを触っている人にとっては非常に馴染み深いもののはずです。そうです キースイッチ です。Cherry MX スタイルのキースイッチや静電容量無接点スイッチ、背の高いメンブレンスイッチはプラスチックの摺動レールによってスイッチの平行移動を実現しています。最近のメカニカルキースイッチはこのレールの精度を高めてキースイッチの軸がぐらつかない = 回転しないように血道を上げているほどです。なんと正解はめちゃくちゃ近くにあったというわけです。

現在はこの理論が実用的であるかを確認するために設計を始めています。来年 2024 年 3 月 2 日 (土) に開催のキーボードマーケット トーキョー に向けてこの機構を搭載したキーボードを発表・発売できればと考えています。遅すぎると言われたらそれまでなのですが、努力してみようと思います。

おまけ - 今年の振り返り

www.itmedia.co.jp biacco42.hatenablog.com keeb-market.jp

もう少しアウトプットしたいなぁ…

HHKB Studio 製品開発中の社外レビュワーと先行体験を経ての HHKB Studio レビュー

ついに HHKB Studio が発表・発売されました。

※発売直後に売り切れてしまっていましたが、今日 10/31 に再入荷されるようです。
※10/31 の販売も即完売になってしまったようです… 次回入荷は 11 月中頃とのこと。

HHKB Studio

ポインティングスティックとジェスチャーパッドの追加と、なんと言っても HHKB の名を冠しながらメカニカルキースイッチを採用するなど、大きな変化に興奮と動揺があったことは発表後の各種 SNS の反応からも窺えます。

実は HHKB Studio にはキーボードニュースぺかそ @Pekaso とともに開発の後半 (最終製品に近い検証モデルはすでに作られているぐらい) の段階からおよそ 1.5 年に渡って「後期アセスメント」に関わってきた経緯があります。また、HHKB エヴァンジェリストとしてここ 2 週間ほど最終製品を先行して使ってきました。

ですので、本レビューでは HHKB Studio の基本的な部分の紹介に関しては簡単な説明に留め、上記のような HHKB Studio の大きな変化の部分に焦点を当て、このキーボードがどうしてこのようなモデルになったのか、そして「HHKB としてどうなのか」について、スペックではなく実際の使用感を中心にレビューしてみようと思います。

基本情報

基本的なところは プレスリリース にあるので、その中の注目ポイントについてだけ簡単に紹介します。

www.pfu.ricoh.com

HHKB Studio は 10/25 に発表・発売となった HHKB の 新ラインナップ です。新たにメカニカルキースイッチを採用したほか、ポインティングスティック・ジェスチャーパッドなどが追加された意欲的なモデルになります。静電容量無接点スイッチ (以下東プレスイッチ) を採用した既存モデルは併売されるため、HHKB Professional 系が東プレスイッチ、HHKB Studio 系がメカニカルキースイッチ + ポインティングデバイスという棲み分けになりそうです。

また HHKB Professional HYBRID シリーズから強化されたキーボードカスタマイズのソフトウェアについても HHKB Studio では大幅に強化されています。カスタマイズできるレイヤーが 2 → 4 レイヤーに倍増したほか、新たに Profile という概念が追加されカスタマイズ内容が 4 つまで保存可能になり、その Profile をキーボード上から即時切り替えられるようになりました。これによって Windows / macOS 切り替えが簡単に行えるようになっている他、アプリごとにキーマップをカスタマイズするような使い方もできるようになっています。

HHKB のアイコンであるコンパクトなキーレイアウトは維持しつつ外観デザインは一新された

機能・デバイス以外の点では、外観も大幅に刷新されました。従来モデルでは出っ張っていた電池ボックスが筐体内に格納されるようになったのもうれしいポイントです。

そもそも HHKB Studio はどういった位置づけの誰向けの製品なのか

HHKB Studio は前述の通り HHKB の新ラインナップです。「最小の動きで、無限大の創造を」をキャッチコピーに、HHKB のコアであるコンパクトで合理的なキー配列を継承、HHKB らしい高品位な打鍵体験を提供する専用カスタムメカニカルスイッチを採用し、ポインティングスティック・ジェスチャーパッドを搭載することで GUI 環境での 統合された入力デバイス = 仕事場 (Studio) を提供するというコンセプトを持った製品になっています。

HHKB はもともと UNIX / CUI 環境でどんなマシンにも使えるポータブルでコンパクトで合理的配列のキーボードを作るプロジェクトであり、そういう意味で HHKB は文字入力に特化した環境でのプロの仕事場として愛されてきました。それから四半世紀ほどを経てコンピュータの利用シーンも大きく様変わりし多様なタスクが実行できるようになった今、どんなマシン、そしてどんなタスクにも使えるポータブルな入力デバイスとして、GUI 環境でのプロの仕事場として企画されたのが HHKB Studio と言えそうです。

そういった多様化したタスクに対応した仕事場 = Studio というコンセプトを実現するために、HHKB Studio ではカスタマイズ性に大きく舵を切った設計になっています。物議を醸しているメカニカルキースイッチの採用も、ソケット交換式 (ホットスワップ) で簡単に好みの互換キースイッチに差し替えてカスタマイズできるというところが大きな理由となっているようです。

HHKB User Meetup vol.7 での HHKB Studio 企画者の笠原さんの「HHKB Professional はこれが最高だからこれを使ってください ~(中略)~ HHKB Studio は自分の色に染めてください」 という発言や HHKB Professional HYBRID シリーズからより強化拡張されたキーマップ変更ツールからも、HHKB Professional シリーズに対して HHKB Studio が Studio というコンセプトを実現するためにカスタマイズ性を軸に据えて企画・設計された製品であることがわかります。

すなわち、HHKB Studio はそういった GUI 環境でどんなマシン・どんなタスクにも使えるポータブルな入力デバイスを求める人たちに向けて開発された新しい HHKB ということになりそうです。

HHKB Studio と HHKB Professional HYBRID Type-S

そのため、既存の文字中心の利用を想定した東プレスイッチ採用の HHKB Professional シリーズは継続して販売されますし、HHKB Studio が HHKB Professional シリーズの後継機・上位機というわけでもありません。和田先生が求めた、長く使えるコンパクトで合理的なキーレイアウトのキーボードである HHKB Professional シリーズは、引き続き完成された理想形として提供されることになります。

ですから「東プレスイッチにあらずんば HHKB にあらず」という人や「HHKB の後継・上位機種が出たから買い換えよう」といった考えの人が HHKB Studio を購入すると納得できない可能性があります。

逆に「高品位で完成済みのリニアスイッチな HHKB が欲しかった」「HHKB Studio の統合されたインプット環境というコンセプトが自分にフィットする」「HHKB をより深くカスタマイズしたかった」といった方にはおすすめできる製品になっています。

「HHKB」とは Happy Hacking Keyboard (HHKB) は計算機科学者の和田英一先生と PFU が協力して開発し、1996 年に第一世代が発売されたコンパクトレイアウトのキーボードシリーズです。当時キーボードのレイアウトがマシンごとに異なっており不便を感じていた和田先生が 幅広いマシンで長く安定して利用できるキーボード を求めて発案した「Aleph キーボード」をベースに開発され、そのコンパクトで合理的な配列、マシンを選ばないポータブルなキー配列が幅広い支持を受けて現在の HHKB の地位を確立しました。

意外に思われるかもしれませんが、2003 年の HHKB Professional の発売まで HHKB はメンブレン式のキーボードでした。HHKB の性質上プロユーザーが多数を占めていたため高品位で快適な打鍵感は発売当初より重要視されていたようですが、HHKB Professional での東プレスイッチの採用によって プロのための合理的なキー配列と心地よいキータッチという「HHKB」の本質 が決定づけられていくことになります。

今回の HHKB Studio も、メカニカルキースイッチとなりキースイッチの動作形式は変わりましたが「プロのための合理的なキー配列と心地よいキータッチ」を受け継いでいます。手段ではなく目的の部分に HHKB のコアコンセプトがあるんですね。

HHKB User Meetup vol.7 での和田先生の「携帯電話が送話受話の機能しかなかったところから、写真を撮ることもでき自分の位置もわかり万能情報処理ツールのスマートフォンになったように、HHKB もポインティングスティック、マウスボタン、ジェスチャーパッドなどが使えるようになり万能手動入力装置に大変身し、スマート HHKB になったかと思われます。」 (要約) という話も印象的でした。

新規要素

ここからは HHKB Studio の新規要素であるメカニカルキースイッチ、ポインティングスティック・マウスボタン、ジェスチャーパッドについて先行体験 2 週間での使用感をお伝えします。

カニカルキースイッチ

HHKB Studio では東プレスイッチを採用した既存の HHKB Professional シリーズとは異なり、Kailh 製の PFU カスタムスイッチ (以下 HHKB Studio スイッチ) が採用されています。東プレスイッチが支持されているポイントの一つがその高い耐久性ですが、PFU さんもこの点にはこだわっており東プレスイッチ採用 HHKB と同様の耐久性テストをこのカスタムスイッチでも実施し、少なくとも東プレスイッチ (3000 万回耐久) 以上の耐久性があることを確認したとのことでした。

Kailh 製カスタムスイッチ

HHKB Studio スイッチの概観としては、リニアスイッチのためタクタイル感のある東プレスイッチと打鍵感は異なりますが、スイッチだけでなく筐体やキーキャップまで含めたチューニングによるものか打鍵音や底打ちの感触が東プレスイッチの HHKB Professional Type-S シリーズに近く、不思議とたしかにこれは「HHKB」っぽいなというおもしろい感覚があります。

HHKB Studio スイッチは東プレスイッチに近いと同時に最近のメカニカルスイッチらしく軸のブレは Type-S スイッチと比べて大幅に小さく、潤滑も適度で軽いスレ感はあるもののなめらかで、安定感があり上質です。ただタクタイル感はないためやはり東プレスイッチとはどうしても打鍵感は異なります。打鍵音は HHKB Studio のほうが HHKB Professional HYBRID Type-S よりはだいぶ静かですが、心地よくはっきりした低音寄りのサウンドプロファイルで打鍵のたのしさは負けず劣らずといった印象です。このあたりは究極的には好みだと思うので、ぜひ触って判断してみてください。

スイッチの回路部分はソケット式になっており好みのスイッチに差し替えることができる

また、スイッチの好みに関しては HHKB Studio は後からスイッチを差し替えることができるのでそういった面でも融通がきくのが美点です。メカニカルではありますがタクタイル感のあるキースイッチに差し替えてもいいでしょう。HHKB Studio で手に入らないのは東プレスイッチだけですね…

海外の「Topre 信仰」 米ガジェットレビューサイト大手 Tom's Hardware を筆頭に、HHKB Studio が東プレスイッチを採用しなかったことに対する海外ユーザーの落胆の声は日本国内のものに比べて大きく、また辛辣なものが多く見受けられます。これについてはある事情が考えられます。

海外でも東プレスイッチの打鍵感の評価は高く「Topre」の名で知られていますが、一方で同時に東プレスイッチを搭載した REALFORCE や HHKB の入手性が海外で長らく悪かったため、その希少性故に知っている人は熱狂的だが知らない人のほうが圧倒的に多いという若干歪な「Topre 信仰」とも呼べるような状態が続いていました (海外 SNS で「今度東京に行くから HHKB を買ってくるんだ!」といった書き込みがあったぐらい)。

2018 年に PFU が持つ海外販路で HHKB の米国再参入と REALFORCE の米国参入が実現し状況は改善していますが、依然として知名度がとても高い状態とは言えないようです。そのため海外で「Topre」を知っている人、という時点でかなり熱心な東プレスイッチファンであることが予想され「Topre is the soul of the HHKB.」というような若干過激な事になってしまっているようです。

Tom's Hardware のレビューについても大半の部分のレビューについては妥当であるものの、東プレスイッチを採用していない点については若干冷静さを欠いており、キースイッチやキーキャップが付属せず組み立てが必要な HHKB レイアウトのメカニカルキーボードキットである「Tokyo60」を引き合いに出すなど混乱が見られます。

今回の海外の HHKB Studio に対する反応の一部は、東プレスイッチが世界でそれだけ深く愛されているということの裏返しとも言えそうです。今後 HHKB Studio が海外でどのように評価されていくかが気になります。

ポインティングスティック・マウスボタン

HHKB の完全新規要素の一つがポインティングスティック・マウスボタンです。私はもともとトラックボーラーですが、ポインティングスティック素人の私でも数日で操作に慣れることができました。ただ他のキーボードのポインティングスティックを知らないので、あくまで「少なくとも私は簡単に操作できた」程度の感想と思ってください。

ポインティングスティック

ポインティングスティックをしばらく利用した印象としては、基本的に問題ないレベルでは使えるものの私が普段使いしているトラックボールトラックパッドに比べると操作精度に関してはどうしても一段落ちる印象です。マウス・トラックパッドトラックボールが直接的に位置情報 (速度の積分) を入力するのに対し、ポインティングスティックは速度を入力するデバイスであるため相対的にはどうしても制御は難しいです。

ポインティングスティック

HHKB Studio のデモ動画に出てきているような Adobe IllustratorAdobe After Effects 等の比較的細かなマウスポインタ制御を求められるツールを実際に HHKB Studio を使って 2 週間ほどヘビーに操作してみましたが、操作精度の不足によるストレスや作業速度低下はさすがに否定できません。これは上記のデモ動画が示すようなユースケースに関して残念ながらネガティブな要素です。ポインティングスティックで動画や画像編集を行うことは可能ですが、最高のデバイスになるのは難しいかもしれません。慣れによるところも大きいとは思いますが…

逆に既存の HHKB ユーザーとして多いと思われるプログラマや文筆家、編集者などの人にとってはキーボードから手を離さず GUI を簡単に操作できて意外にも親和性が高いと感じました。あまり高精度なマウスポインタ操作を要求されず GUI 上のボタンやテキストを操作する程度であればストレスなく使えるため、上記業種等に加えてオフィス系ソフトウェアの利用にも適しているかもしれません。

実際のところキーボードから手を離さずに操作できる没入感は圧倒的で、上に書いたように Adobe 製品のような画像編集等の操作に多少の不満はあるものの、結局この没入感のある操作の気持ちよさ負けてここ 2 週間は HHKB Studio のポインティングスティックでの操作に統一してトラックボールを撤去してしまいました。

個人的にはポインティングスティックの感度を 3 にして、OS 側で速度を微調整すると操作感がよく感じました。このあたりもファームウェアアップデートで洗練されていってほしいポイントですね。

マウスボタン

ポインティングスティックの追加に伴ってマウスボタンも追加されました。スイッチには Gateron のロープロファイルスイッチが採用されています。キーボード部分とマウスボタンでわざわざ異なるキースイッチメーカーを選んだ PFU さんこだわりのポイントです。

実際、操作感やデバイスとしての枯れ具合から後期アセスメントではマウスやトラックボールで一般的に用いられるマイクロスイッチの採用を提案したこともありましたが「キーボード本体のスイッチと耐久性に差があり、マウスボタン側が先に壊れてしまう」という理由で却下されるなどかなりこだわりを持って選択されているようでした。

マウスボタンのスイッチには Gateron のロープロファイルスイッチが採用された。こちらもソケット式で交換ができる

ただ、後期アセスメントではこのロープロファイルカニカルキースイッチの選択によって大揉めすることになります。

HHKB Studio ではマウスボタンがケースのフチとツライチであわせられた、かなり意匠性の高い設計がされています。それ自体は素晴らしいことなのですが、初期の試作モデルではキーキャップのスイッチへの嵌合が甘かったのかその時点で選定されているキースイッチの精度がよくなかったのかこのツライチのデザインが完全に裏目に出ており、マウスボタンの隙間が不均一だったり平行が出ていなかったりと組み立て精度の不足がガチャガチャした見た目としてめちゃくちゃに悪目立ちしてしまっていました。

また、キーボード部分の打鍵感が前述の通り非常になめらかで洗練され、打鍵音がコントロールされているのに対し、マウスボタンの打鍵感・打鍵音ともにパカパカとしたかなり安っぽいものになってしまっていたため、一時は「このクオリティではちょっと OK は出せないですね…」とだいぶ暗雲垂れ込めたりもしていました。

そういった中で、前述のマイクロスイッチの採用、いっそのこと静電容量タッチパネルに変更、キースイッチをより精度の高いものに選定やり直し、マウスボタンのキーキャップのスカートを伸ばす・肉厚にするなどの構造的変更、マウスボタンのキーキャップの裏にフォームを貼り付ける… などなど様々な提案を PFU の担当者の方々と頭を突き合わせて、それこそ終電間際まで付き合ってもらいました。もちろん全てが採用されたわけではなく、PFU さんも高耐久のロープロファイルカニカルスイッチは譲れないなど喧々諤々の議論がありましたが、その結果は発売された HHKB Studio を見ていただければと思います。

マウスボタン。高い精度が求められる筐体とツライチのボタンデザインが実現している

ジェスチャーパッド

HHKB Studio の完全新規要素のもう一つがジェスチャーパッドと称する本体左右側面それぞれに 1 つずつ、本体前面のマウススイッチを挟んだ左右に 1 つずつ、合計 4 つ搭載されているアナログスライドパッドです。本体がチャコールグレーとマットシルバーの二色構成になっていますがこのデザインには意味があり、チャコールグレーの部分にのみジェスチャーパッドがあり、マットシルバー部分は単なるケースになっているので触れても反応しないようになっています。標準では左側にカーソルキー上下、手前左側にカーソルキー左右、右側にスクロール、手前右側にタスクスイッチャーが設定されています。

ジェスチャーパッド。筐体の左右と前面の左右 2 箇所、あわせて 4 箇所に搭載されている

ジェスチャーパッドの検出精度に関してはもう少しなめらかな解像感がほしいものの、基本的にはきっちりと検出してくれる印象です。ただ現在のファームウェアの実装だと誤検出防止のためのタッチ開始時の入力を一定時間ブロックする処理が長く、しばらく反応しないなと思ったら突然スムーズに動き出すというやや違和感のある挙動になっており、これについてはファームウェアアップデート等で改善してほしいポイントです。

前述の操作精度はソフトウェア的に改善できそうなのですが、より根源的に気になるポイントはポインティングスティックとの相性の悪さです。前述した通りポインティングスティックは操作性こそ癖があるものの、キーボードのホームポジションから腕を大きく動かす必要がないシームレスな体験が非常に快適なのに対し、ジェスチャーパッドは手をホームポジションから離して大きく動かして操作する必要があり、ポインティングスティックのよい点と完全にバッティングしてしまっています。

これについては近年ブームとなっているキーボード搭載のロータリーエンコーダにも当てはまるため、私が思いついていないだけでホームポジションから手を移動してでも使う価値のあるユースケースが存在するのかもしれません。このあたりは PFU さんからも「画像編集ソフトのブラシサイズ変更に便利!」等の具体的な使い道をもっと提案、アピールしていただけるといいかもしれないな、とは感じています。

最終的に HHKB として、キーボードとしてどうなのか

結論から言うと HHKB Studio はかなり HHKB なのではないかと思います。

HHKB Studio は挑戦的なモデルであり新規要素も多く、まだまだ荒削りな部分があることは否めません。その一方で「HHKB とはなにか?」という点について真剣に検討し、磨き上げられてきた設計製造技術とこだわりによって HHKB らしい非常に高品位な製品 に仕上げられています。

特にポインティングスティックとマウスボタンの統合は、コンパクトで合理的な HHKB 配列というコンセプトを守りつつ、この考えを時代に合わせて GUI にも拡張したと考えると非常に腑に落ちます。ただ同じものを作るのではなく、守るべき根幹を守りながら再解釈を行ったアップデートは衝撃的であると同時に実際に使ってみると納得感がありました。

議論を呼んだメカニカルキースイッチの採用についても「プロのための合理的なキー配列と心地よいキータッチ」という目的をブレさせず、東プレスイッチという手段にこだわらないで、実際に高品位な打鍵感を実現できた技術力には素直に感心しました。

もちろん最初でも述べた通り HHKB Studio は HHKB Professional の後継機でも上位機でもありません。そのため HHKB Professional シリーズをすでに持っている人が無理に乗り換える必要はないと感じますが、HHKB の名を冠したキーボードの最新作やポインティングデバイスの統合というコンセプトに惹かれる方にはぜひ触ってみてほしくはあります。

では、広くキーボードとしてみた場合の HHKB Studio はどうでしょうか?

あなたが本当によいキーボードがほしくて、かつ自作キーボードやカスタムキーボードのような電子工作や打鍵感向上のための試行錯誤に時間を溶かすことがしたくないのであれば、HHKB Studio は数少ない最高の選択肢の一つでしょう。

現状「購入して箱から出してすぐに使える」という完成品の範囲では、どれだけお金を積んでも HHKB Studio レベルによい打鍵感・打鍵音のキーボードを手に入れるのは容易ではありません。それこそライバルは東プレスイッチを採用した HHKB Professional シリーズや REALFORCE になってくると思われます。

HHKB Studio はたしかに絶対的な価格は非常に高価ですが、これだけの品質のキーボードが組み立て済みの完成品として、しかも安定した供給がある状態で販売され、アフターサポートも受けられると考えると十分現実的な価格と言える気がします。

あなたが自作キーボードやカスタムキーボードなど、電子工作や黒い画面を厭わず、その打鍵感を向上させるためにスイッチを全て剥がしてははめ直し、キースイッチを潤滑し、Tape Mod 等の効果を検証するべくキーボードを分解しては組み立てることに情熱が傾けられるだけの時間とお金があるのならもう少し選択肢は広がって、HHKB Studio はそれらの選択肢の中の一つになるかもしれません。

それなりのクオリティ以上のキーボードを作ろうと思うと結局 HHKB Studio ぐらいの金額はしてしまう気がしますが、自作やカスタムを考慮に入れると HHKB Studio のライバルはかなり多くなってくると思われます。それでもポインティングスティックのついたキーボードは珍しいのでポインティングスティックに目がないのならおすすめです。

一方で、あなたがちょっとよいレベルのキーボードを求めているのであれば HHKB Studio は少しばかり過剰かもしれません。HHKB Studio はマウスボタンの項でも書いた通り、若干偏執的ともとれるこだわりがところどころに見受けられるキーボードです。その細部にまで気を配るために HHKB Studio はそれなりに高いコストを強いられています。

打鍵感や打鍵音、バネ鳴りの一つまで、微に入り細を穿つこだわりがあるのであれば HHKB Studio の金額を払う価値は十分にあると思いますが、そうでなければ国内メーカーのメカニカルスイッチ採用キーボードや Keychron などの新興カスタムキーボードメーカーのキーボードを選んでみるのもいいかもしれません。もちろんお財布に余裕があればぜひ HHKB Studio のこだわりと良さを体験してみてほしいですが。

個人的には HHKB Studio のキーボードとしての立ち位置はこのような印象になっています。

まとめ

いずれにしても HHKB Studio は HHKB 初代から実に 25 年以上ぶりの大変革モデルです。打鍵感に関してはぜひ毛嫌いせず、実際に体験してみてほしいと感じています。

HHKB Studio は各地にある HHKB タッチ&トライスポット で触ることができます。また、今週末 11/4 (土) に開催される 天下一キーボードわいわい会 vol.5 でも、PFU 協賛ブースにて HHKB Studio と HHKB Professional HYBRID の打ち比べ体験などができる予定とのことです。天キー vol.5 にいらっしゃる方はぜひ東プレスイッチ HHKB とメカニカルスイッチ HHKB を並べて触って比較してみてください。

HHKB Studio は 10/25 の発売直後に売り切れてしまっていましたが、本日 10/31 に再入荷されるようです。
次回入荷は 11 月中頃とのこと。間違いなく色々な意味でおもしろいキーボードなので、本当に触ってみてほしいです。

HHKB Studio は小売流通に乗っていないので家電量販店等の店頭では触れません。HHKB タッチ&トライスポット で触ることができるので、お近くのところにぜひ伺ってみてください。

happyhackingkb.com

この記事は HHKB Studio を使って書かれました。


この記事は ぺかそ 氏、サリチル酸 氏、モン𝕏オブファンク 氏、yohe 氏にレビューいただきました。本当にありがとうございました。

コミケ C102 サークル kabesa* お品書き (8/13 (日) 西"あ" 02a)

コミケ C102 2 日目の 8/13 (日) 西 "あ" 02a にサークル「kabesa*」として出展します。

技術とイラストのサークルとして第 2 号、「kabesa* vol.02」を発刊します。

内容

巻頭グラビア 二輪のすすめ (著 Biacco42)

二輪の魅力を写真で伝えます。二輪といってもバイクだけでなく自転車も出てきます。手が離せない二輪での撮影のお供「GoPro Hero 10」「DJI Osmo Action 3」の作例も載っています。

特集 見抜けますか?AI 生成 (著 ddb)

昨今話題の AI 生成イラスト。それを検出する「AI生成イラスト検出 AI」とその危険性などについて実践的検証を含めて議論します。マンガとテキストの混成です。

ChatGPT で VJ 映像を作る (著 yuchi)

Lili58 作者の yuchi が、ChatGPT で VJ 映像素材を生成する事例を実践的に紹介します。実際に与えるプロンプトと生成されるコード、開発プロセスについて紹介しています。

ドーナツを n つ、ドーナツ抜きで (著 龍道 幽 / 水原 由紀)

ドーナツの穴を飼い始めてからというもの、気分が良い。 で始まる短編小説。SF 的・散文的作品です。

まとめ

といった感じになっています。引き続き私 Biacco42 が編集・写真・デザインを担当させていただきました。前回 vol. 1 よりだいぶクオリティアップしています。 vol. 1 に引き続きごった煮感の強いおもしろい本になっていますので、ぜひお立ち寄りください。

既刊少部数・新刊ともに 1000 円での頒布になります。 コミケ C102 2 日目 8/13 (日) 西 "あ" 02a サークル kabesa* でお待ちしています!

キー部 5% 行ってきた

キー部 5% に行ってきました。

開催挨拶

共同主催のゆかりさんから開会挨拶。キー部はもともと天キーを再開するための試金石だったが、天キーが再開された今、キー部の位置づけを再検討してよりマニアックな・設計者や販売者向けのイベントとして特化していく方向性が案内されました。

共同主催のサリチル酸さんも ErgoArrows Pro を片手に。

CreatorPad

ついに量産用の最終確認が完了したとのこと。今回はダブルショットの最終製品版キーキャップが初展示されていた。成形がめちゃくちゃにキレイだった!

電子タイプライター

キーボードのようにキーの入力を一旦電気的に検出してから電動ハンマーで文字をタイプする電子タイプライターというおもしろいものをアンドラさんが展示していた。

まさかのバックスペースもあり、バックスペースを押すと白いテープ?で文字の上からタイプすることで消すようになっていた。自動修正テープ的な。

MagLev Switch

磁力でスイッチの反発力と入力検出を同時に行う MagLev Switch の発表を @famichu さんがしていた。大型カットモデルは FFF 方式 3D プリンタで、実際に Cherry MX と互換のサイズのものは光造形方式の 3D プリンタで造形されていた。光造形で高精度な機械もの作るのすごい…。そして実際発表でも光造形の精度追い求めるとキツイ… という話をされていた。

反発力が距離の 2 乗に反比例するので超強烈プログレッシブスプリングみたいになる。おもしろいが、強い反発力のある磁石は高いらしく…むずかしいね。とはいえ実際に動くモデルがあるのはすごかった。

IBM Model M

Buckilng Spring 方式の伝説的キーボード。こんなのも触れるのすごい。

凹型パームレスト

可動式パームレストの zumuya さんの新作。力強い。

manedge / namedge

public (i)mage さんのめちゃくちゃオシャレなキーボード。よすぎる。

色々なキーボードコーナー

Daily Craft Keyboard さん。

カスタムキーボーズ。

YMG WORKS さん。キーボードニュース 200 回記念キーキャップ!

3araht さんの楽器シリーズ。演奏してる人がいた!

ALPS スイッチルブ実演

You Tatekawa さんによる、世にも珍しいアルプススイッチのルブの実演発表。

ALPS スイッチのルブの様子が全世界にリアルタイムに発信される稀有な現場をみんなで目撃した。

立体キーボード

ぴろりどん さんの 3D プリント立体キーボード SLIDE64 と CygSUS。SLIDE64 は以外にも手前側のキーが押しやすくてよかったものの結構癖があり、ぴろりどんさん自身も今は使っていないとのこと。これが初めての設計だったとか!?

CygSUS は打鍵音が非常によかったです。

色々なキーボードコーナー 2

機嫌を損ねたシェフさんのアクリルケースだけどウェイトがついててかなり重厚だったキーボード。

ぎーくらびっとさんのおレーザー加工がきれいな山田アリスとパズルみたいに接続できるスイッチ台。

takashicompany さんのテーブル。KEEB_PD を二連覇した Ergomirage や狭ピッチの miniDivide など Twitter でみたことのあるキーボードがたくさん。狭ピッチは本当に小さくてよかった。

homura さんの col staggered で列を移動できるおもしろいキーボード。

alg さんテーブル。フロッピーディスク型キーボードもありました。

orihikama さんの Hermit。中 2 列だけ斜めになった配列や左右接続ケーブルが特徴的…

いつも狂気の手作業で仕上げてくるジョンマイヤーさん。強烈な研磨の印象が強いけど、新作はめちゃくちゃ精緻な海底に沈んだ都市。

CRAB CRAFT さんのテーブル。アルチザンキーキャップもさることながらブランドデザインとか見せ方がキレイ。

オタク ブラックの CreatorPad。

techmech さんの OLSK60 と Boardwalk。Ortholinear かっこいいですね!オレンジのケースがマジでかっこいい。

policium さんテーブル。GRIN シリーズが並んでいる。GRIN One が打鍵音よくてよかった…

mikekoma さん、nana さん。アルミシャフトで左右を固定する機構が無骨い。

yohe さんの新作 Alic/Ja (アリシア)。修正用メモのホワイトがおしゃれでもはやこういうデザインっぽくてかっこいい。

Thinking Face キーキャップの荒涼さんの新作。ロブスターとオマール海老。右手と左手でハサミの大きさと形が違うとのこと!

今村勇輔さんの名前の通り親指シフトな ThumbShift v0.1。

みつきさんの glade60。Ortho 3 連!

ALPS スイッチのルブ実演発表をされていた縦川さんの展示。かなり個性的な 3D プリントキーボードを設計されていた。

MDA Future Suzuri のモンクスオブファンクさんの Aleth42 三兄弟。

おわり

最後には天キー vol.5 が 11/4 に六本木 DMM 本社で開催する予定であることや、9 月ぐらいにキー部 6% が開催されるかもしれないことが発表されて幕を閉じた。

いろいろなキーボードを見て設計している人とも話せてかなりコアだけどたのしいイベントでした!キー部に参加するならぜひ自分で設計したキーボード持っていきたいですね。

レポでした。

Cura 5 系の Preview レンダリングが Ubuntu 22.04 / Wayland / Radeon RX5700XT 環境で乱れるのを直す - Fix Cura 5's Preview rendering problem

ォァー

Solve the preview problem

起動時に環境変数 MESA_LOADER_DRIVER_OVERRIDE=zink を設定する。

Set the environment variable MESA_LOADER_DRIVER_OVERRIDE=zink at startup.

$ MESA_LOADER_DRIVER_OVERRIDE=zink ./UltiMaker-Cura-5.3.0-linux-modern.AppImage

😊

コミケ C101 サークル kabesa* お品書き (12/31 (土) 西"せ " 05a)

コミケ C101 2 日目の 12/31 (土) 西"せ " 05a にサークル「kabesa*」として出展します。

技術とイラストの本と題して「kabesa* vol.01」を発刊します。

合同誌「kabesa* vol.01」表紙と背表紙

内容としては

  • 「ひとがたり」長谷川夏暉先生のイラストメイキング (長谷川夏暉)
  • 高難度ペンシルパズル (数字をつなげるゲーム) (タイビィ)
  • Blender とペパクラデザイナーを用いた球面に貼るステッカーの構成 (nixeneko)
  • パワー半導体紹介漫画 (ddb)

といった感じになっています。私 Biacco42 は編集・表紙イラスト線画・写真・デザインを担当しています。 ごった煮感の強いおもしろい本にはなったので、ぜひお立ち寄りください。

コミケ C101 12/31 (土) 西"せ " 05a でお待ちしています!

Ergo42 が Remap に対応しました🎉 と Remap / VIA の QMK breaking changes の話

この記事は キーボード #1 Advent Calender 2022 の記事です。

昨日はまーびいさんの 推しVtuberをモチーフにしたキーボードを作った話 でした。

Ergo42 が Remap に対応しました🎉 (予定)

Ergo42 の VIA / Remap に対応したファームウェアを作成しました。

[NEW!] Remap でのファームウェア書き込みに対応しました!

Remap のカタログに Ergo42 が追加されました。

remap-keys.app

Remap と対応ブラウザでファームウェアを書き込むことができます🎉

QMK フォーク repo

フォークしたブランチで対応ファームをビルドできます。

github.com

せっかく Remap / VIA に対応したのでビルド済み hex ファイルも用意してみました!

ビルド済み hex ファイル

www.dropbox.com

ビルドした hex ファイル or 上記ビルド済み hex ファイルを QMK toolbox で書き込むことでキーマップを Remap / VIA といった GUI ツールで変更できるようになります。

Remap / VIA 用キーボード定義 JSON

www.dropbox.com

そしてこちらの対応ファームウェアを Remap のキーボードカタログ・ファームウェア書き込み機能で書き込みできるようになる 予定です。

なぜ全部予定かというと、Remap のキーボードカタログ登録に審査があるのをすっかり忘れていたからです。現在絶賛審査中です。ありがとう Remap 運営チーム。

現在はこのファームウェアを書き込んだ状態で Remap / VIA にてキーボード定義 json ファイルを読み込むことで書き換えが可能になっています。

Remap 運営チームに超速対応していただきました。ありがとうございます🙏

というわけで、この記事は Remap で Ergo42 の登録申請が受理された ら更新されます ので更新されました!

いずれにしても、今までは Ergo42 は「ファームウェアからビルドしてね」という meishi2 と正反対のスパルタンな姿勢でしたが、この度 GUI ベースのキーマップ変更に対応しました🎉 今後とも Ergo42 をよろしくお願いいたします。

(2023 9/11 追記) Remap が QMK 0.22 系に対応し、0.18 系のキーマップ書き換え対応は https://qmk018.remap-keys.app になりました。現在 Remap にホストされている Ergo42 / meishi2 のファームウェアは 0.18 系なので、キーマップの書き換えは https://qmk018.remap-keys.app を利用してください。

近いうちに 0.22 系のファームウェアを Remap にアップロード予定です。

Remap / VIA と QMK Firmware breaking changes の話

あれ、今って Remap / VIA って正しく動かないんじゃないの?と思った方はかなり事情に詳しい方かと思います。じゃあ Ergo42 が Remap に対応しても使えないの?と思われるかもしれませんが そんな事はありません。

そのあたりの事情について簡単にまとめておきます。内容自体は非常に簡単な話です。

QMK の breaking changes 2022 11/26 と Remap / VIA

QMK では 2022 年 11 月 26 日に 0.18 系から 0.19 系へのアップデートに伴っていくつかの破壊的変更が導入されています。その中でも Remap / VIA に影響があったのが Keycodes refactoring です。

github.com

Remap / VIA では QMK と同期したキーコードのテーブルを独自に保持し、VIA が導入した Raw HID 上のプロトコルに則って各キーに割り当てるキーコードを送出しています。

ここでポイントなのが QMK が扱うのは「文字」そのものではなく「キーコード」という記号であるということです。例を上げると「0x0004 番を 'a' とする」というような対応付がされています。

今回の破壊的変更により、このキーコードが大幅に変更されることとなってしまいました。これにより「Remap は TO(1) と思って 0x5001 をキーコードとして送るけど QMK 0.19 系はそれを LM(0, MOD_LCTL) と解釈してしまう」というような不整合が発生します。逆もまた然りです。

ver key code 意味
0.18 系 (Remap / VIA) 0x5001 TO(1)
0.19 系 0x5001 LM(0, MOD_LCTL)

最近では見かけなくなりましたが、内容としては EUC-JP のテキストを Shift-JIS で解釈してしまって文字化けするのと同じです。

やっかいなのが Remap / VIA がこれに追従するのも大変ですし (上記の EUC-JP と Shift-JIS の例で考えてみてください)、仮に多大な労力を払って QMK の変更に追従したとしても今度は最新の 0.19 系のファームウェアでない、現状ほとんどのキーボードのキーマップ書き換えが壊れてしまうということです。

もちろんバージョンによって利用するキーコードテーブルを差し替えるという対応も考えられますが、現状の VIA プロトコルでは VIA_FIRMWARE_VERSION という形で値が取れるようになっているものの、この値は QMK のバージョニングとは独立している上に VIA の管理下のためどのような運用がされるかも不明です。現状ではこの値は 0 に固定されており設定されているキーボードはないようです。

仮に何らかの方法でキーコードのバージョンが与えられても、そもそも複数のキーコードテーブルを保守管理するコストもあります。

というわけで、今回の破壊的変更は Remap / VIA のような動的キーマップ書き換えのエコシステムを実質的に破壊してしまうものになっています。VIA はコストを掛けて QMK に追従することを検討しているようですがこの辺に関しては深追いしていないのでわかりません。

現状の対応策

では Ergo42 の今回の Remap / VIA 対応ファームウェアはどうしたのでしょうか?非常に簡単な話で、 単に 0.18 系で作っただけです。 もちろん 0.19 系で新たに入った機能やバグ修正の恩恵は受けられませんが、0.18 系だからといって困ることというのは現実的にはないという判断です。

また Remap にはファームウェア書き込み機能という素晴らしい機能がついています。そのため、Remap に自作のキーボードを登録する開発者は Remap に 0.18 系で実装したファームウェアを登録することで、Remap のシステム上で操作が完結する限りに置いて動作の保証を提供することができます。Remap の機能実装の伏線回収がきれいすぎる。

というわけで、Remap / VIA の機能を利用させてもらいたい開発者は当面 0.18 系でファームウェアを開発しましょうね、というのが現状のいい感じの回答になりそうです。

もしくはいままでの Ergo42 のようにファームウェアソースコード・キーマップを自分で書き換えてビルドしてもらうかですね!ファームからビルドすれば何でもできるので!

おわり

この記事は Ergo42 with Remap / VIA 対応ファームウェアで書きました。

ちなみに Advent calendar 登録時の仮タイトルは 遅刻しないアドベントカレンダーの書き方 でした。

HHKB Professional HYBRID Type-S 雪の定常販売、HHKB 発売 25 + 1 周年 HHKB が選ばれ続ける理由、HHKB の周辺アイテムの話

この記事は、信じがたいと思いますが キーボード #1 Advent Calendar 2021 の 20 日目の記事です。

19 日目はせきごんさんの 2021年の振り返りとRP2040(RPi Pico)を使って分割キーボードの通信をUSBにする話 でした。

21 日目は Yoichiro さんの Remapがファームウェア書き込みでやってること です。

2021 年 12 月は HHKB 発売 25 周年であり、それにちなんだ記事を書く予定でした。「HHKB Professional HYBRID Type-S 雪」モデルもそんな 25 周年記念の限定モデルでしたが、この度この雪モデルが常設販売される運びになりましたので、昨年唯一 キーボード #1 Advent Calendar 2021 に穴を開けてしまった記事をこの機に乗じて上梓しようという魂胆です。あとつい癖でメディア向けの文体になってしまったけど特に理由はないです。

装いも新たになった「HHKB Professional HYBRID Type-S 雪」定常販売モデル

HHKB Professional HYBRID Type-S 雪 定常販売モデル

そもそも「雪」モデルとは

HHKB は昨年 2021 年 12 月に発売 25 周年を迎えた。その際に 25 周年限定カラーとして企画・販売されたのが「HHKB Professional HYBRID Type-S 雪」モデルだ。名前の通り純白のモデルで、既存の「墨」「白」のカラーバリエーションではあるものの通常モデルで本体左肩および右肩に与えられていた「HHKB Professional HYBRID」「Type-S」の刻印を取り除くなど思い切った限定仕様となっていた。

25 周年にちなんで 2500 台数量限定 (英語配列日本語配列各 1250 台) の販売であったが、一瞬で完売し再販の希望が継続的に寄せられていた。

2021 年に販売された HHKB 発売 25 周年記念の限定「雪」モデル (無刻印は交換キーキャップによる)

そしてつい先日、2022 年 10 月 25 日より晴れて「HHKB Professional HYBRID Type-S 雪」モデルが定常販売のラインナップに仲間入りした。しかし単なる再販ではなく「雪」モデルにあわせたアップデートが施されての再登場となっている。

「雪」モデル定常販売版は限定版から何が変わったのか

最大の変更点はキーキャップの刻印で、既存モデルのものから刷新されている。刻印がキー中央に移動となったほか、より細め・小さめのフォントを採用している。

「雪」限定モデル (左) と定常販売モデル (右) の刻印の違い

25 周年記念限定モデルでは「墨」「白」と同様の刻印が行われていたが、純白の「雪」モデルに対しては少しコントラストが強すぎるという指摘は HHKB エヴァンジェリストからも当初より出ていたようである。実際私も限定版に関しては即座に無刻印キーキャップに換装してしまっていたので、無意識下でも多少の違和感は感じていたところがあるかもしれない。

HHKB のメーカーである PFU はこの点を受け止めて今回の新刻印の採用に踏み切ったようだ。フォントが細くなったことで刻印の主張が適度に抑えられ、「中央印字デザイン」によって「雪」カラーに見合ったモダンな雰囲気に調整されている。

アルファベットは中央印字の刻印になったほか、モディファイアについてもフォントを小さく端に寄せるなど調整が行われている

また、今回追加された「雪」の定常販売モデルは「英語配列 / 日本語配列」と「刻印あり / 無刻印」の組み合わせによる全部で 4 つのバリエーションからなっており、その中でも「刻印あり」モデルでは本体上部の「HHKB Professional HYBRID」「Type-S」の刻印が復活している。無刻印モデルに関しては限定版同様本体の刻印はなしとなっている。

「刻印あり / 無刻印」それぞれの 交換用キートップセット も同時に販売されるため「本体に HHKB の刻印はほしいけどキーキャップは無刻印にしたい」「本体の刻印はいらないけどキーキャップの刻印はほしい」というニーズにも対応できるようになっている。

刻印有りモデルについては本体肩のブランドネーム刻印が復活

HHKB が選ばれ続ける理由

冒頭でも説明したとおり、HHKB は 2021 年に販売 25 周年を迎えた。これだけの長い期間選ばれ続けているだけでなく、最近ではより販売に勢いがついているほどだという。その人気の理由とはなんだろうか?

最近の HHKB のイメージといえば、静電容量無接点スイッチによるなめらかな打鍵感という人も多いのではないかと思う。実際東プレ製静電容量無接点スイッチを採用した HHKB には「一度使ったらこの打鍵感から離れられない」という熱心なファンが数多くいるのは有名な話だ。HHKB は「Type-S」スイッチで打鍵感にさらなる磨きをかけており、上質なタイピング体験の向上に余念がない。実際「HHKB Professional HYBRID Type-S」のスイッチは既存の「HHKB Professional Type-S」スイッチと比べてもさらなる精度向上によって明らかに打鍵のスムーズさが向上している。

HHKB Professional HYBRID Type-S スイッチ (公式サイトより引用) https://happyhackingkb.com/jp/products/

しかし実は HHKB によって静電容量無接点スイッチは必ずしも本質ではない。1996 年、HHKB の最初のモデル KB01/02 はいわゆる普通のキーボード、メンブレンスイッチを採用したモデルとなっていた。現在の HHKB に近い静電容量無接点スイッチのモデルが登場したのは実に 2003 年になってからのことである。

発売当初の HHKB、当時は Happy Hacking Keyboard (HHK) の設計の原点となったのは東大名誉教授の和田英一先生の Aleph キーボードである。

1990 年代当時はマシンもキーボードも規格や製品が乱立・多様化しており、マシンが変わればキーボードも変わってしまうほか多様化するマシンに合わせてキーの種類が肥大化するなど、和田先生のような熟達したプロユーザーほど使いづらい状況であったという。

そういった状況で Aleph キーボード / HHK に求められたのは、プロがどの端末に接続しても使いやすいポータブルなキーボードであるということであった。そのために生まれたのが 25 年の時を超えて現在の HHKB にも引き継がれているキーレイアウトであり、「60% キーボード」として今なお多くのキーボードのリファレンスになっている。HHKB の本質は打鍵体験のよさはもちろんのこと、プロにとって使いやすく持ち運びやすいキーレイアウトであるということだ。いわゆる「馬の鞍」 である。

25 年変わらない HHKB のキーレイアウト。コンパクトに必要十分なキーが詰め込まれている (https://happyhackingkb.com/jp/news/snowmodel_types/ より引用)

このような HHKB の設計思想は古びれるどころか、むしろより価値を増している。様々な場所で自由に仕事ができるようになり多くの人が当然のように複数の端末を持つようになった現在、HHKB のコンパクトな設計は持ち運びしやすく、どの端末でも共通の操作ができる「馬の鞍」として確固としたポジションを築いている。25 年前の先見の明が今も HHKB が選ばれる理由となっているのだ。

周辺アイテム

HHKB の見逃せないポイントとして、それ自体が周辺機器であるキーボードであるにも関わらず周辺アイテムが非常に豊富であることが挙げられる。ここでは HHKB を更に快適に使える周辺アイテムを簡単に紹介したい。

HHKBキーボードルーフ

HHKBキーボードルーフ

HHKB ロゴ入りのほこり・汚れよけのプラスチックカバー。誤操作防止にもなる。クリアケースなのでキーボードが見れるのもいい。

ケーブルKEEPER

ケーブルKEEPER

正確には HHKB 周辺アイテムではないが、デスクのケーブルの整理に。ラップトップなど持ち出すマシンのケーブルを固定しておけて便利。持ち出したマシンをスタンドにセットして「ケーブルKEEPER」からケーブルを接続して「HHKB Professional HYBRID Type-S 雪」を BLE で接続して、という運用をしている。

セパレート型ウッドパームレストウォールナット

セパレート型ウッドパームレストウォールナット

HHKB ロゴ付きの分割型パームレスト。ゴム脚の高さが 2 種類選べる。分割型なので尊師スタイルトラックパッドを避けて配置することもできる。木の手触りがいい。

HHKB吸振マットHG(Professional HYBRIDシリーズ用(Type-S、Classic含む))

HHKB吸振マットHG(Professional HYBRIDシリーズ用(Type-S、Classic含む))

HHKB の裏面に貼ってクッション性とグリップを高めるパーツ。グリップ性がめちゃくちゃに高まるほか、打鍵時の音も少し静かになる。「HHKB Professional HYBRID」/「HYBRID Type-S」は静音モデルとはいえそれなりに音がするので手軽に静音化するにはおすすめ。

キーボードブリッジ

キーボードブリッジ

尊師スタイルで HHKB を使うためのオプション。13 / 15 インチクラスのサイズのノートパソコンという名の Macbook Pro 等で利用できる。HHKB は Macbook Pro でそのままでもギリギリ尊師スタイルで使うことができるがこのキーボードブリッジを使うと確実に HHKB を配置できる。トラックパッドもきれいに避けてくれていて使い勝手は良好。

というわけで「HHKB Professional HYBRID Type-S 雪」定常販売モデルと HHKB の魅力、HHKB 周辺アイテムの紹介をしました。カスタムキーボード・自作キーボードはもちろんいいけれど、やっぱりコンパクトなキーボードの先駆けとなった HHKB はいいですね。

この記事は HHKB Professional HYBRID Type-S 雪 (定常販売モデル) で書きました。

3Dプリンター改造記録 2021 - (ほぼ) メンテナンスフリー を実現する実践的改造 12 選

この記事は 3Dプリンター改造記録 Advent Calendar 2021 13 日目の記事です (遅刻)。

adventar.org

とりあえず現状

1 号

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2 号 (改造中)

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全景

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この記事の目的 - 改造とそのおすすめ度の紹介

3Dプリンター改造記録 Advent Calendar 2021 は「今年実施した/今年までに実施した3Dプリンターへの改造内容」であればよいとのことなので、2021 現在の最新の改造状況を一通り列挙してどういった影響があるか・おすすめかどうかを紹介しようと思います。

※書いてみたら改造だけじゃなく 3D プリンタ周辺アイテムの話が多くなってしまったけど許して。

各章の【★】の数はおすすめ度で

  • 3 個: 金額・手間問わずぜひやったほうがいい
  • 2 個: 金額・手間と見合うならやる価値あり
  • 1 個: やると便利かもしれないが好みの問題

章は星の数降順で並べてあります (上にある内容のほうがおすすめ)。

ちなみに改造素体は Anycubic i3 Mega 2 台ですが、ある程度一般性があるように書こうと思います。

ダイレクトエクストルーダ化・フルメタルホットエンド化 【★★★】

3D プリンタの基本にして印刷品質を決定づける重要パーツがフィラメントを押し出す「エクストルーダ」と押し出されたフィラメントを溶かして積層していく「ホットエンド」です。この 2 つを改造することで印刷品質とメンテナンス性が大幅に向上します。正直なところ 3D プリンタを実用するなら絶対にやっておいたほうがいいです。

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ここ最近の最新機種を除いて、廉価な 3D プリンタはボーデン式と言われるエクストルーダとホットエンドが離れていて PTFE チューブを通してフィラメントを押し出すものが多いです。ボーデン式は印刷時の可動部 (キャリッジ) の質量が小さくなるというメリットがありますが、エクストルーダとホットエンドまでが離れていることでどうしてもエクストルーダの動作に対してフィラメントのレスポンスが悪化するため、印刷品質を高めるために考慮するべきことが多くなり上級者向けです。

それに対してダイレクト式はエクストルーダをホットエンドの直上に配置することでエクストルーダとホットエンドの距離を最小化します。それによってエクストルーダの動きがホットエンドへのフィラメント送り量にダイレクトに反映され、印刷品質の向上のためのチューニングが容易になります。そのため初心者こそダイレクトエクストルーダ化したほうがいいと感じています。

またヒートブレークという高温部分と低温部分を分ける部品には PTFE チューブが貫通する全通ヒートブレークと高温部分までは PTFE チューブが通らないフルメタルヒートブレークという違いがあります。

PTFE チューブは連続使用温度は 260 ℃ 程度ですが、PLA / PETG などで 220 ℃ 程度で使用していても高温部分に PTFE チューブが直接触れる全通ヒートブレークだと PTFE チューブが変形・劣化して詰まってしまう現象が多発します。そのため高温部分には金属部品しかないフルメタルヒートブレーク・フルメタルホットエンド化すると PTFE の劣化によるトラブルが回避できてメンテナンス性が大幅に向上します。

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ダイレクトエクストルーダ化・フルメタルヒートブレーク化した i3 Mega

私は「まろやか」の愛称でおなじみの Mellow 製の NF-DDG-WIND を使っています。こちらの製品はエクストルーダとホットエンドが一体化したもので、標準でフルメタルヒートブレークが付属するので上記の改造がいっぺんに可能です。しかも安いし減速ギアがついていて押出トルクが向上してフィラメント送り制御の品質が向上します。

BL-Touch の導入 【★★★】

何も考えずに絶対にやったほうがいいです。

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BL-Touch もしくはそれの互換品の 3D Touch などの接触センサを利用して、自動でメッシュベッドレベリングを行います。プリントベッドは平らなように見えますがどうしても微妙に歪んでいたりするので、いくらベッドのレベリングをネジで調整してもなかなか Perfect First Layer にはならなかったりします。

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ベッドの歪の可視化

BL-Touch を導入することで、この微妙な歪みを計測して印刷時に補正することができ、3D プリントの最初の難所である 1 層目のベッドへの定着を安定させることができます。BL-Touch を導入してからはベッドのレベリングに気を使う必要が全然なく、印刷の失敗もほぼなくなりました。間違いなく導入すべきです。

BL-Touch の導入はプリンタとファームウェアによって違うので、それらの導入ドキュメントを読んでください!(丸投げ)

ヒートベッドの断熱 【★★★】

ヒートベッドがそのまま露出している場合は断熱してあげると昇温が早かったり消費電力を減らせたりちょっとよいかもしれない。手間もコストもかからないのでとりあえずやっておいていいと思う。

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ヒートベッドを外して粘着コルクシートを貼るだけ

使ったのは

これをヒートベッドの配線やネジを避けるように少しだけカットして貼り付けるだけ。

ヒートブロックのシリコンソックス 【★★★】

超簡単だし安いし絶対やるべき。ヒートブロック温度が安定する。

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Triangle Lab の V6 のもの など。

ヒートブロックをアルミから銅にする 【★★★】

お安い標準のヒートブロックはアルミ製ですが、アルミは柔らかくネジ山が潰れやすかったり、同一体積であれば熱容量も銅に比べると小さいなど必ずしもヒートブロックに適した素材ではありません。安いけど。

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銅のメッキ品のヒートブロックはネジ山が潰れづらく熱容量もアルミに比べて大きくなるため印刷に非常に適しています。ちょっと値は張りますが、お手軽に品質向上とプリンタの安定性が高まるのでおすすめです。

E3D のものTriangle Lab のもの など。

フィラメント乾燥ボックスとシリカゲル【★★★】

フィラメントの乾燥は 2020 年頃から日本の 3D プリンタコミュニティではすっかり常識になりました。フィラメントが吸湿すると印刷品質に影響するため、フィラメントを乾燥した状態でいかに保管するかは重要です。適当な大きさのドライボックスにシリカゲルと一緒にフィラメントを保管するとだいぶ長く使えるようになります。それでも早めに使ったほうがいいそうですが、私なんかはこの方法で 2 年モノのフィラメントでも印刷はできています。

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写真のドライボックスはこちら。フィラメントリールが 5 個 + 詰め込めばもう 1 個ぐらい入ります。

シリカゲルは A 型と B 型があり、A 型が強力に湿度を吸ってくれます。市販のものは調湿 (完全に湿度を取り切るわけではない) の B 型のものが多いので注意が必要です。私は以下の個包装シリカゲルを使っています。安いので説明は無視してドライボックスに 20 個全て突っ込んでいます。量は正義。

個包装シリカゲルの乾燥は電子レンジ 500 W で 2 分程度加熱 → 冷ますを何回か繰り返すことで行っています。電子レンジで一回でまとめて長時間加熱すると不織布が溶けてしまうのでこまめに加熱 → 冷却を繰り返すのが重要です。

フィラメントの真空保存バッグ 【★★★】

上でフィラメント乾燥ボックスを紹介しましたが、なんだかんだその保管方法は色々面倒だったりします。とくに直近頻繁に使う事がわかっているフィラメントをフィラメント乾燥ボックスに毎回出し入れすると、乾燥ボックス内の湿度が上がってしまって元の木阿弥になってしまいます。

そこで、フィラメントリール一つを乾燥して保管できる真空保存バッグを使うとめちゃくちゃ捗ります。

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真空保存バッグにシリカゲルを入れてフィラメントリールを入れてこうじゃ

手軽に低湿度が保てておすすめです。乾燥したシリカゲルの保存にも使っています。私は以下の商品を使っていますがいい感じでした。

フィラメントドライヤー 【★★★】

上記 2 つはフィラメントをどうやってできるだけ吸湿させないかというパッシブな対応でしたが、ある程度水分を吸ってしまったフィラメントを加熱乾燥させるアクティブな対応がフィラメントドライヤーです。私は eSUN eBOX を使っていますが、amazon.co.jp だとひどい転売価格?で販売されているのでリンクの Aliexpress の公式ストアで購入するのがいいでしょう。

もしくは Amazon で買える SUNLU のものでもいいかもしれません。SUNLU のやつは購入したもののまだ使えていない…

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フィラメントドライヤーは加熱するだけなので、内部にシリカゲルを入れると吸湿もできるようになります。こういうときに上記の小分けパッケージが便利です。

また、ドライボックスにしろフィラメントドライヤーにしろ、湿度がわからないと管理できないので適当な湿度計をつけておくといいかと思います。

安物なので一つ一つの精度は当てにならないので、必ず 1 箇所に 2 個以上配置するようにしています。また、ある程度マスターになる信頼できる湿度計をいくつか買って基準にするといいです。

私はこの辺を一応参考に置いています。

OctoPrint + Klipper 導入 【★★☆】

Raspberry Pi による Web インターフェースで 3D プリンタが制御できる OctoPrint と、OctoPrint と連携して Raspberry Pi 上で動作する 3D プリンタ制御ソフトウェア Klipper を導入すると、PC / スマホから 3D プリンタを制御できて作業性が大幅に向上するだけでなく、Raspberry Pi の潤沢な計算資源による高度な 3D プリンタ制御ができます。

Marlin に代表される組み込み型の 3D プリンタ制御ソフトウェアは、組み込みの貧弱なプロセッサとメモリで動作しなくてはならかったり、Marlin の設定を変更するために 3D プリンタの EEPROM を書き換える or そもそも Marlin 自体をソースコードを変更してビルドし直す必要があったりとチューニング・保守性に難があります。

それに対して Klipper なら豊富な計算資源を利用した高度な制御ができたり、設定も Raspberry Pi 上の config テキストファイルを書き換えるだけでよかったり、利便性が向上します。Klipper では ringing と呼ばれる 3D プリンタの共振周波数による印刷物表面の波打ちをキャンセルする Input Shaper や、3D プリンタ自体の歪を補正する Skew Correction などが利用できて印刷品質の向上が期待できます。

導入はちょっと面倒ですが、お金のかからないカスタムなのでやってみてもいいと思います。

ヒートベッドのバネ鋼化 【★☆☆】

Anycubic i3 Mega はガラスベッドなのですが、その上に粘着シートのついたマグネットシートを貼り付けて、バネ鋼を乗せるだけのお手軽改造です。ガラスベッドは印刷を繰り返すとどうしても傷などの劣化が印刷物に写って気になりますが、バネ鋼なら単価も安く交換も簡単で印刷物の取り外しも楽ちんなので運用コストが激減します。

とはいえマストというほどではないかも?あれば便利ぐらいの感じです。

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ガラスベッドに直接マグネットシートを貼り付けて粉体塗装されたバネ鋼を乗せるだけ

写真のバネ鋼はこちら。マグネットシートも付属しているのでこれだけで改造ができます。

モータードライバ交換 (A4988 → TMC2208 / TMC2209) 【★☆☆】

モータードライバを静音なものに交換する。意外かもしれないけれど ★ 1 つ。

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左 A4988、右 TMC2208

たしかに静かになるが、印刷品質が上がるわけではないし、TMC2208 / TMC2209 は排熱も大きく脱調しやすかったり、StealthChop だとモーターのトルクが足りなくて吐出量が安定しなかったり、そもそも導入の際に基準電圧を設定しなきゃいけなかったりと意外と面倒が多くコントロールが難しい。モータードライバ交換は当たり前みたいな空気もあるけれど、無理してやらなくてもいいとは思う。とはいえ A4988 はそれなりにうるさいけど…

Anycubic i3 Mega の場合 TMC2209 を利用すると特に設定等せずそのまま差し替えるだけで SpreadCycle モードになるのでトルク・発熱の問題を回避できる。TMC2208 の場合、One Time Programmable Memory で StealthChop から SpreadCycle に変更することをおすすめします。これがちょっとめんどい…

最近は標準で TMC の静音ドライバが乗っていることも多いためそもそも気にしなくてもいいかもしれない。

モータードライバ冷却ファン交換 【★☆☆】

上のモータードライバ交換で発熱量の大きいモータードライバに交換した場合は必須。静音化にも。これは Anycubic i3 Mega の話ですが、モータードライバ冷却ファンがうるさい・性能が低い機種の場合は変えてみるのはいいと思います。

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交換ファン固定ステー、大口径の静音ファン、組み立てた様子

使った静音ファンは

大型静音で風量も一応あり薄型でケース内に収まるものがこれだった。

おわり

2020 ~ 2021 年にかけて 3D プリンタの改造を通して 3D プリンタに対しての理解がだいぶ進みました。今の所上記の改造でだいたい納得できる品質になっています。

最近では 3D プリンタが安価に入手できるようになりそれらの印刷品質もかなりよくなっていますが、そうは言ってもコストカットの問題なのか印刷トラブルの原因になる部分が結構残っています。この記事が安価な 3D プリンタの押さえるべき改造ポイントのガイドとして役立ってくれるとうれしいです。

iOS 14.2 (iPhone 12) で Metal を使っているアプリを Xcode 12.3 のデバッガをアタッチした状態で実行すると画面の自動回転が機能しない話

自分で書いてもタイトルが意味不明なのですが

  • macOS Big Sur (11.1)
  • Xcode 12.3
  • iOS 14.2 (iPhone 12)
  • Metal を利用した iOS アプリ
  • Xcode のデバッガがアタッチされた状態で実行

iOS アプリの画面の自動回転が機能しない。

解決法

Scheme の run > option > GPU Frame Capture を Automatically Enabled から Metal に変更する。

おわり

USB ケーブルをつないで iOS 実機で Metal を利用したアプリのデバッグ実行を Xcode から行っていると当該現象が発生して iPhone を回転しても画面が回転しなくなった。当然コントロールセンターで画面回転ロックはしておらず、他のアプリは正常に回転する。また Metal などを利用していない空のアプリだと画面回転が機能する。完全に自分のロジックが間違っているように見える状況でだいぶ頭を抱えた。もー。

参考

developer.apple.com

Amazon.co.jpアソシエイト