4x7 split keyboard Ergo42 をつくったときの失敗話
この記事は、自作キーボード Advent Calender の25日目クリスマスの記事です。
昨日の記事は、ないんさんの キー配列頂上決戦!さいつよなレイアウトはどれだ! でした。
はい
4x7 split キーボード #Ergo42 プロト完成しました。今日一日会社で使ったけど問題なかったし、むしろ完全に期待通りで優勝した pic.twitter.com/JtqYRoKDn7
— 人生たの椎名林檎 1日目 東3 カ54b (@Biacco42) 2017年11月20日
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KbD C93 という自作キーボード同人誌が 12/29(金) 東3 カ54b で頒布されます。
昨年あたりの ErgoDox での話題から、今年は Let's Split の大ブレークなど、2017 は自作キーボード元年ともいえる盛り上がりだったのではないでしょうか?そういった状況で、自作キーボードを職場で見かけたり、ブログや podcast などで見聞きした人、そして興味を持たれた人もだいぶ多くなってきたのではないかと思います。
その一方で、キーボードを自作するというのはおそらくまだまだ "得体の知れない" 行為である部分も多々あると思います。半年前の私もそうでした。
そこでそういった、自作キーボードに興味はあるけど、どこから手を付けていいかわからない、という人たちにとってわかりやすい入門のきっかけとなるように本を作りました。
KbD C93 を 1日目 東3 カ54b で頒布します。自作キーボードが気になるけれどどこから手を付けていいかわからない、という方向けの入門書です。検索のきっかけになるワードを強調するなど、入門から発展の足がかりになる内容に仕上がりました。フルカラーです!よきに! pic.twitter.com/yu3BpAR6vH
— 人生たの椎名林檎 1日目 東3 カ54b (@Biacco42) 2017年12月21日
この記事で紹介する Ergo42 の制作過程についても載っているので、ぜひ。
なにがしかの方法で通販もしようかと思いますので、当日来れない方もぜひよろしくお願いします。ご一報いただけると販売数を調整できるかもしれないので気軽に Twitter 等でご連絡ください。
宣伝終わり。
What ― 4x7 split keyboard Ergo42
Ergo42 という split / ortholinear / 4 行 7 列 のキーボードを作りました。
42 の理由は The Answer to the Ultimate Question of Life, the Universe, and at least Keyboards. です(ググってみてください)。
Why ― バランスのいい分割キーボードが欲しかった
もともと去年の夏頃から ErgoDox EZ / ErgoDox を使っていて概ね満足していたのですが、使っていく中でいくつか気になることが出てきました。
- レイアウト切り替え機能が標準的な QMK を利用できるキーボードでは、指を伸ばして 5 行を使うのはちょっと余りある
- 特に親指の扱えるキーは 6 キーも振られているが親指でそこまで扱えない
- にも関わらずキー数の多さゆえにサイズが大きく持ち運びが大変
- エルゴノミックデザインということで、列ごとにキーがずらされているがこれが有効か確信が持てなくなってきた
そんな折、今年になって大ブレークしたのが Let's Split です。Let's Split は
- 4 行
- 親指で扱えるのは 2 キー程度
- 4x6 の最小限な構成と小型設計
- 完全直行配置
ということで、完全に自分のニーズにマッチするようで飛びつこうかと思ったのですが、ErgoDox で一番内側のキー(7 列目)を多用していた私としては 4x6 配列だとどうしてもキーが入り切らず、煮え切らないまま購入に踏み切れずにいました。
そこで、自分の考えるようなことは誰でも思いつくだろうと思って 4x7 split ortholinear なキーボードがないかなと思って探してみたのですが、なんと驚いたことに存在していませんでした。
ないなら作るしかないかということで作りました。
How ― どこから手を付けていいかわからないので先人の知恵に頼る
上記で Why を突き詰めていった結果、やりたいことはこの時点でかなり明確になっていました。その一方で、何をやったらいいかは全く不明でした。
ErgoDox でキーボード自体の組み立ては経験済みだったため、キーボードの構成要素やおおよそどう作られているかはわかっていましたが、自作するとなるとどうしたものかわからなかったのでマネすることにしました。オープンソース万歳。
詳しいことは薄い本 KbD の方にまとめてあるのでぜひ手にとっていただくとして 、大抵こういう場合はなんかいい感じにうまくいってしまった話がまとめられてしまうものなので、ここでは本に載せられなかった失敗談をメインに書いていきます。失敗が怖くてなかなか踏み出せない私みたいな人が一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
失敗 1 ― プロジェクトが開けない
とりあえず最初は慣れ親しんだ ErgoDox の KiCad プロジェクトを見てみようとしたのですが、なぜか KiCad の PCB デザインファイルが開けずいきなり詰まる。KiCad のファイルには編集した KiCad のバージョンが記録されておりかつ、基本的に下位互換性を保証しない = 編集された KiCad バージョンより古い KiCad ではファイルを開けないという仕組みになっているのですが、コミットされていたバージョンのファイルの KiCad のバージョンが通常のバージョン命名規則から逸脱しており(ベータ版?)、最新の安定版どころかリリースされているいずれのバージョンでも開けなくなっていました。しょーもなくて疲れた。
ある程度コミットを遡って PCB 設計ファイルを開けるようになったのですが、最新版との差分も気になるし精神衛生上よろしくなかったので、この時点で ErgoDox をベースに作成する案はなしになり、代わりに Let's Split をベースに方針転換しました。今思うと KiCad のファイルはテキストファイルなので、バージョン番号だけ適当に書き換えてチャレンジしてみても良かったかもしれない。
失敗 2 ― 回路の流用はかえって大変
というわけで Let's Split をベースにするようにしたのですが、プログラマーの方ならわかるでしょうが、他人のソースコードを読むのは、それがよほど配慮して書かれていない限り、それなりに苦労があります。それを拡張するとなればいわんやをや。
最初は Let's Split のプロジェクトを改造して適当に 1 列足せばいけるやろ~w とか思っていたのですが、回路の設計意図を読み解いて、それを壊さずに拡張するのがめっちゃしんどいことが発覚し、またライブラリ等についても KiCad が結構フリーダムな仕様になっていて、もとの設計を流用するほうが困難だとわかりライブラリも含めて全部自分でやることにしました。この決断をするまでにも結構うだうだして時間を食った。
失敗 3 ― 買い物は慌てずに
これは失敗というかは微妙なのですが、ErgoDox では赤軸(45 g)を使っており、新しいキーボードにはリニアでもっと軽いキーならもっと楽になるのではという単純な発想で、Gateron 白軸(35 g)を買ってみました。で、組み立て終わって使ってみたのですが、ハチャメチャに軽い。軽くて打鍵感が軽いのはもちろんでそれは良かったのですが、簡単に沈み込んでしまうため底打ちしてしまいやすく、指を跳ね返す力が弱いので自分で指を持ち上げなければいけないという不思議体験をすることになり、個人的にはいまいちあいませんでした。後輩は荷重 30 g のキーボードを気に入っているそうなので個人差が大きそうですが。
キースイッチはキーボードの打鍵感の大半を決める重要なファクターなので、時間とお金を惜しまずキースイッチサンプルセット等をまず買って好みのものをしっかり見極めるほうが結果的に節約になると学びました。急がば回れ。
失敗 4 ― 世の中にはレーザー加工機を使う人間が思ったよりいるし、ファッションコワーキングスペースはそんなに怖くない
ケースを製作するにあたって、3D プリンタは経験がなくなんとなく難しそうだったため(アホ)、アクリルをレーザー加工機で加工するよくある方式でやることにしたのですが、レーザー加工してくれる業者も、レーザー加工機を貸してくれる場所も意外と少ない。はじめてのケース製作では東急ハンズでアクリル板を買って、レーザー加工機のレンタルだと有名所な FabCafe 渋谷に雨の中いったのですが、まさかの予約で完全に埋まっており利用できず。FabCafe は予約できるのですが、予約の最小枠が 40 分でキーボードを加工するにはちょっと過剰なのでドロップイン利用を狙っていたのですが、世の中にはレーザー加工機を使う人間が思ったよりいる。
その後、雨の中悲しい気持ちだったのですが、とっさに調べて原宿にある coromoza さんに電話して、幸い空いていることを確認できてアクリル板を加工することができました。coromoza さんは 表参道にあるファッションのコワーキングスペース ということでくっそビビっていたのですが、スタッフさんが丁寧に対応してくれてとてもよかったです。5 分単位で予約もできるので、足が伸ばせる人はおすすめ。
失敗 5 ― 心配するよりやってみたほうが吉
最大の失敗は、自作キーボードなんて自分に作れるのか?といってビビっていることでした。やってみた結果わかったのですが、正直キーボードの自作は電子工作としてはかなり簡単な方です。高周波回路とかでもないし、レイアウトには余裕があるので分布定数とか厳密なことは考えなくてもぶっちゃけ動きます。そしてなにより自分で手を動かしてみるとやはり理解が進みます。当方ボーカルプロ志向バンドメンバー求むに陥らず、ぜひ手を動かしていきましょう💪
そしてそんな人を応援する C93 東3 カ54b のサークルたのしい人生(Biacco42)の KbD と Discord サーバーをどうぞよろしく。お後がよろしいようで。
この記事は、Ergo42 rev.1 で書かれました。