たのしい人生

自作キーボードと 3D プリンターとものづくりの民主化

この記事は「キーボード #1 Advent Calendar 2020」 21 日目の記事です。

adventar.org

20 日目は Kakudo さんの「KiCadの便利プラグインと綺麗な配線」でした。

zenn.dev

当初予定では「マツコの知らないキーボードの世界出演の話とか今設計してるやつとか」の予定だったのですが、別立ての 2020 振り返り記事にしました しようかと思います (振り返り記事を投稿したらリンクを張ります)

biacco42.hatenablog.com

TL;DR

これは随筆です。

自作キーボードと 3D プリンタに共通する「ものづくりを人々の手に取り戻す」ということについて考えが多少整理されたのでまとめました。

3D プリンタとものづくりの力

今年は自作キーボードの設計に必要だからと言い訳しながらずっと 3D プリンタをいじって年末を迎えてしまいました。そんな 3D プリンタと向き合った 2020 年の中で一つ頭をぶん殴られるような思いをしたことがありました。(註釈: FDM とは家庭用デスクトップ型の 3D プリンタで現在主流の方式)

もともと 3D プリンタは設計試作ができればいいやと思っていたのですが、このツイートにはだいぶ感銘を受けて 3D プリントでキーボードを作ることを最近は真剣に考えています。そして、形こそ違えど、この「ものづくりを人々の手に取り戻す」という行為の実践の一つが自作キーボードなのではないかと感じ始めています。

レジスタンスとしての自作キーボード

世の中には本当にあらゆる製品が溢れていますが、そのどれもこれもが高度化した製造と仕組みによってブラックボックス化し、製品の具体的な内側を消費者の想像の埒外に追いやり、決して自分では作れないという諦めのようなものを人々に植え付けてしまっているような気がします。実際には (間接的であれ) 人間の手によって作られていることは間違いないにもかかわらず、です。

そういった 20 世紀的な大量生産によって生じるある種の諦めを、私の場合は自作キーボードという文化が解体してくれたのです。

私が自作キーボードに入門して初めて組み立てたキーボードは ErgoDox でした。当時はまだ情報も少なく仕組みなどわけもわからずという状態だったものの、市販製品として買うことしかできないと思っていたキーボードを自分の手で組み立てて、ソフトウェア (ファームウェア) も自分でカスタマイズして動作させることができるという体験に非常に感動した覚えがあります。

その後、さらに歩を進めて自身で分割キーボード Ergo42 や入門キットの Meishi / meishi2 を設計して製造・販売をすることもできました。自作キーボードも多分に発展した 2020 年現在から見ればアクリルのサンドイッチケースはかなり "シンプル" であることは否めないですが、それでも実用的な強度と十分すぎる打鍵体験は未だに古びれないですし、むしろ今はそういった「人の手によって作られたことがわかる素朴さ」が私の原体験だったということを再確認しています。

yushakobo.jp yushakobo.jp

自作キーボードにおける「3D プリンタ」

自作キーボードが最近急激に盛り上がっているのは単なるムーブメントなのかというと、そうではないと思っています。

昨今のスタイルの自作キーボードが確立する 2015 年頃以前から、キーボードを自作する・改造するということをしている方がいらっしゃったことはインターネットを掘り起こすと確認できます。ではなぜここ数年、これほどまでに自作キーボードが盛り上がったのでしょうか。

それは

  • 設計のためのオープンソースソフトウェアの発展・低コスト化
  • CNC などの技術革新による少量生産の大幅な発展・低コスト化
  • 国際的な流通と web 技術の発展による専門部品の調達の容易化・低コスト化

によって、今までは企業などのある程度の資本規模がなければできなかった設計・製造が、個人レベルでも実現可能な範囲に入ってきたからです。より直截に言えば、お金や加工技術がなくても再現性のあるものづくりが誰にでもできるようになったからです。

「お金や加工技術がなくても再現性のあるものづくりが誰にでもできる」、まさにこれは 3D プリンタの性質と合致します。自作キーボードの設計記事でよく目にするパーツ販売サイトや基板製造委託業者こそが、自作キーボードにおける「3D プリンタ」だったのです。

製造技術の進歩とものづくりの民主化

技術発展によって生産性が上がり低コスト化することで、従来大資本でなければできなかったことが個人や小さな集団でもできるようになる、というのは自作キーボードに特権的なものではありません。ソフトウェアの世界ではひと足早くこういった事が起こりました。最近では T シャツやマグカップに自身のデザインをプリントした製品をオンデマンドで生産販売するサービスもすっかり定着しています。

そういった多方面での設計・製造・流通・オンライン商取引の発展により、権力としての製造能力は大資本の独占ではなく、市民の平等な権利になりつつあります。ものづくりの民主化です。そのため、おそらく第二、第三の「自作キーボード」がこれから登場してくるでしょう。

そして、自作キーボードも含めてそういった製品群がより多くの人の「私は "権力者" ではないからできない」という諦めを解体して、「私にもできるかもしれない」を生み出してくれるのではないか、という大仰な夢に自覚的になれたのが 2020 年の収穫かもしれないです。

つまりは具体的な進捗がないということなのですが。

この記事は Polaris / Kailh Cream housing / Invyr UHMWPE v1 / TriboSys 3203 で書かれました。 2020 12/22 0:40 (遅刻)

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