Why Ergo42? - 私が Ergo42 を作った理由

この記事は 2018/5/6 に開催された東京メカニカルキーボード meetup の Ergo42 の発表を資料とともにまとめたものです。スライドの全体はこちら

Ergo42

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Ergo42 というキーボードをつくりました。

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Ergo42 は

  • 7x4
  • ortholinear
  • split

をコンセプトとした自作キーボードです。

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ちなみに全然伝わらなくて悲しいのですが、Ergo42 の「42」ってなんですか? Ergo56 じゃないの?って死ぬほど聞かれます。

Google で「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」と検索すると、なぜか電卓の UI で「42」と表示されます。それです。銀河ヒッチハイクガイドにもそう書いてある。

Ergo42 は「42」「DON'T PANIC」「The Answer to the Ultimate Question of Life, the Universe, and at least Keyboards.」等々、随所に小説「銀河ヒッチハイクガイド」へのオマージュを仕込んでいるのですが、びっくりするぐらい伝わらなかったので悲しいです。銀河ヒッチハイクガイドは古典的 SF の名作なので読んでください。

銀河ヒッチハイクガイドの紹介をしようと思ったんですが、本文より長くなるのでやめます。

Why Ergo42?

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おそらくかなりの人がこの記事で、自作キーボード、特にこの場合は ErgoDox を知ったかと思います。私も例に漏れずこの記事で ErgoDox、分割キーボード、ひいては自作キーボードというものをはじめて知り、この年 2016 年の夏頃 ErgoDox EZ という ErgoDox の完成品を販売するプロジェクトによって無事沼に足を踏み入れたのでした。余談ですが 2016 年夏といえば、Build Your Own Keyboards の第一巻が発売されたタイミングでもあり、自作キーボードのはしりの時期だったと思います(BYOK も買いました)。

そんなこんなで ErgoDox EZ を買い、間もなく、会社用だけでなく家用が欲しいということですぐに 2 台目の購入となり、今度は Falbatech からパーツを買い集めて、自分で組み立てる ErgoDox をつくり、順調に沼に沈んでいったのですが、そんな幸せな日々も長くは続きませんでした。

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ErgoDox は死ぬほどかっこいいのですし、スプリットキーボード、Columner Staggered なキー配置など自作キーボードの魅力満載なのですが、そのデザインをもってしても気になる点がないわけではありませんでした。

ErgoDox を使ったことがある人はわかると思うのですが、ErgoDox はおそらく外国人の手のサイズを基準に設計されており、かなり大きく・キー数が多く、日本人が使うとどうしてもキーが余ったり、その特徴的な親指のキーが多少遠くなってしまうという問題がありました。これについては正直慣れるのでなんとかならなくもないのですが、その巨大さは持ち歩くには少なくともちょっと悩むサイズで、当時 ErgoDox を持っていた日本人の間でも共通して聞かれる不満点でした。

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そんな気持ちを抱えたまま、日本の自作キーボードシーンの大きな転換点である、2017年 Let's Split ブームが到来します。おそらく多くの人を沼に陥れた元凶に、ご多分に漏れずまたしてもまんまと引っかかり、すわ Let's Split を作らん!となっていたのですが、ErgoDox で鍛えられていた私はそこで一歩踏みとどまり、私が求めるキーボードの要件について検討し始めました。

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そこで手始めにキーマップについて検討し始めたのですが、初手ここでつまずきます。Let's Split はその愛らしいデザインからも分かる通りびっくりするぐらい 初心者お断りなキー数の少なさです。

標準的な ANSI / ASCII なキーボードで 102 キー、JIS キーボードなら 109 キーのところ Let's Split はなんと 48 キーしかありません。半分以下です。正気か?

そんなわけで、ErgoDox で比較的潤沢なキー数 (それでも普通のキーボードよりはだいぶ少ない 76 キー) でのキーマップに慣れてしまっていた私には、どうしても 6x4x2 のキーに自分が必要とするキーマップを入れ込めず、Let's Split は断念となったのでした。

なかったからつくった Ergo42

というわけで、個人的に必須な要件が見えてきました。

  • 十分にコンパクトであること
  • 携帯性や設置性等、取り回しがよいこと
  • 親指の可動域や入力に無理のない適切なキー数、物理キーレイアウトを持つこと

特に最後のキー数・物理キーレイアウトについては、Let's Split の際の検討で非常に重要なポイントとなっていました。そして、そこを前提に検討した結果、Ergo42 の設計である

  • 7x4
  • ortholinear
  • split

というコンセプトが固まっていきました。で、きっと自分と同じことを考えるやつはいるだろうと思って調べてみたところ、意外にもこの仕様のキーボードが見つけられなかったため、自分のための自作キーボード Ergo42 を作ることにしました。

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完成した Ergo42 は正直個人的にはかなり end game といった仕上がりになりました。気に入っているポイントの 1 つがコンパクトであることと同時に、ケーブルの取り回しがしやすい(し、デザイン的にも優れている)ところです。

薄型化の思想については多分に ないんさん @pluis9 の Helix の影響を受けていますが、ケーブリングとそのデザインについては結構こだわりました。

Ergo42 は USB ケーブルが横に出るような、しかも本体の端からではなく本体の半ばから出るような設計になっています。これは、友人が HHKB を尊師スタイルで使っている際に、本体上部から飛び出す USB ケーブルが画面にぶつかって不便そうにしていた点に着想を得ています。また本体端から出さなかったのは、USB ケーブルが一般的に比較的固く、本体端から出した場合壁に干渉したり、不必要にケーブルが外に膨らんで机のスペースを圧迫する・美観を損ねるという問題を回避するためです。

TRRS ケーブルの引き回しについては悩んだのですが

  • 接続先の方向は一定(お互い内向き)
  • 手前のスペースはラップトップのトラックパッドトラックボールを置きたい
  • ラップトップの場合、TRRS ケーブルはマシンの後ろに回したい(視界から消したい・手前でぴろぴろして干渉してトラブルが発生するのを避けたい)

といった点から、USB ケーブルとは引き出す方向を 90 度変え、上方に出すことにしました。さっきの尊師スタイルの話と矛盾するじゃないかというツッコミが今にも聞こえてきそうですが、一般に TRRS ケーブルのほうが柔らかく、L字プラグには向きがない (USB の L字プラグは向きがある) ため、そして設計上のスペースとの兼ね合いから今の位置になりました。上記の写真のように、デスクトップで使う際も TRRS ケーブルを上でくるっとすると設置自由度が高いです。

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また、自分自身のためにも組み立ては簡単になるように色々配慮しました。Ergo42 は Cherry MX / Kailh Low Profile 両対応基板となっているのですが、Cherry MX のフットプリントと Kailh Low Profile のフットプリントを逆さまに配置することでパッド同士の距離を遠くし、ハンダジャンプしづらい設計になっています。

最初は Let's Split を パクって 参考に作る予定だったのですが、思っていたより Let's Split の設計が混乱していたので、そのあたりはフルスクラッチでできるだけきれいに、回路側でがんばって、組み立てがシンプルになるようにしました。わかりやすい例として、Ergo42 ではダイオードの向きは完全にすべての箇所で同じになっており、間違った方向にダイオードをつけてしまうありがちな問題の発生リスクはかなり低減されていると思います。

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そして、最大のポイントがここ、キーマップです。もともと私は ErgoDox で親指を酷使するキーマップにかなりなれていたため、QMK のリポジトリにもそういったキーマップをデフォルトで入れていたのですが(かなりウケが悪く)、より標準的なキーボードに近いキーマップをデフォルトとして今は設置してあります。これは想定していなかった副次的な効果なのですが、7x4 配列にしたことでキー数に余裕があり、カーソルキーも入れた、かなりオーソドックスなレイアウトのキーマップを定義することができました。

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また、もちもん私がもともと実現したかった親指酷使型キーマップもバッチリで、足りないキーがなくて困ることもなく、必要十分のキーを定義できました。

特におすすめポイントは、左手左下の Ctrl は LCtrl に、左手親指の長押しは RCtrl にすることで、Mac 側で Karabiner-Elements を利用して RCtrl を ⌘ コマンドキーに読み替えることで、Windows / Linux / Mac いずれの環境でも利用しやすいところです。Mac だと ⌘ コマンドキーと Ctrl は区別されていてどちらも非常によく使うので、これが同時にキーマップに登録できたところはキー数を増やした恩恵で、これ故に、これ以上キー数を削るのはなぁというところがあると言っても過言ではありません。

分割キーボードですと、割れ目は決まってしまっているので片手で扱えるキー数に厳密な制限があるのですが、列数が少ないと特に右手でキー数が足りないことになりがちです。Ergo42 の私の配列では、Enter や Back space 等の普通右端にあるキーを親指側に逃しつつ Enter や Back space の左隣の記号についてギリギリ詰め込めていて、前述の通り「これがなくて入力ができないよー」みたいなことが起きないように最大限配慮しています。

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という感じで、私の希望をできる限り詰め込んだ Ergo42 は、現在 Booth にてキットを販売中です!

現在予約を受け付けているキットについては、初の アクリルカラーがブラック のバージョンになる予定です。多分これはまためっちゃかっこよくなるので楽しみです!

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そして、現在自作キーボードの先を考えて、新しいアーキテクチャを設計中です。

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技術書典4 で発行した KbD Pre 2018 April にその片鱗が出ているのですが、ARM による比較的高性能なチップをベースに、既存基板のマトリックス回路やダイオードがいらない、 基板設計できなくても自分好みの物理キーレイアウトのキーボードが作れる 、モジュラーな設計を検討中です。こちらは進捗あり次第 Pixiv FANBOX のほうで情報公開していけたらと思っています。

おわりに

そんなわけで、2016 年頃から自作キーボードの、そして日本での自作キーボードの盛り上がりを振り返りながら、Ergo42 をどうして作ったのかについて簡単にご紹介しました。

個人的には Ergo42 でかなり end game 感は出ているのですが、まだまだ新しい設計の自作キーボードが出てきたり、新しいキースイッチが出てきたり、3D プリンタでキーキャップを作ったりケースを作ったりと、幸い当面は飽きることも叶わず、やることも検討することもいっぱいありそうです。

そんな、たのしいたのし沼への案内として Ergo42 が少しでもお役に立てれば光栄です。

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