3Dプリンター改造記録 2021 - (ほぼ) メンテナンスフリー を実現する実践的改造 12 選
この記事は 3Dプリンター改造記録 Advent Calendar 2021 13 日目の記事です (遅刻)。
とりあえず現状
1 号
2 号 (改造中)
全景
この記事の目的 - 改造とそのおすすめ度の紹介
3Dプリンター改造記録 Advent Calendar 2021 は「今年実施した/今年までに実施した3Dプリンターへの改造内容」であればよいとのことなので、2021 現在の最新の改造状況を一通り列挙してどういった影響があるか・おすすめかどうかを紹介しようと思います。
※書いてみたら改造だけじゃなく 3D プリンタ周辺アイテムの話が多くなってしまったけど許して。
各章の【★】の数はおすすめ度で
- 3 個: 金額・手間問わずぜひやったほうがいい
- 2 個: 金額・手間と見合うならやる価値あり
- 1 個: やると便利かもしれないが好みの問題
章は星の数降順で並べてあります (上にある内容のほうがおすすめ)。
ちなみに改造素体は Anycubic i3 Mega 2 台ですが、ある程度一般性があるように書こうと思います。
ダイレクトエクストルーダ化・フルメタルホットエンド化 【★★★】
3D プリンタの基本にして印刷品質を決定づける重要パーツがフィラメントを押し出す「エクストルーダ」と押し出されたフィラメントを溶かして積層していく「ホットエンド」です。この 2 つを改造することで印刷品質とメンテナンス性が大幅に向上します。正直なところ 3D プリンタを実用するなら絶対にやっておいたほうがいいです。
ここ最近の最新機種を除いて、廉価な 3D プリンタはボーデン式と言われるエクストルーダとホットエンドが離れていて PTFE チューブを通してフィラメントを押し出すものが多いです。ボーデン式は印刷時の可動部 (キャリッジ) の質量が小さくなるというメリットがありますが、エクストルーダとホットエンドまでが離れていることでどうしてもエクストルーダの動作に対してフィラメントのレスポンスが悪化するため、印刷品質を高めるために考慮するべきことが多くなり上級者向けです。
それに対してダイレクト式はエクストルーダをホットエンドの直上に配置することでエクストルーダとホットエンドの距離を最小化します。それによってエクストルーダの動きがホットエンドへのフィラメント送り量にダイレクトに反映され、印刷品質の向上のためのチューニングが容易になります。そのため初心者こそダイレクトエクストルーダ化したほうがいいと感じています。
またヒートブレークという高温部分と低温部分を分ける部品には PTFE チューブが貫通する全通ヒートブレークと高温部分までは PTFE チューブが通らないフルメタルヒートブレークという違いがあります。
PTFE チューブは連続使用温度は 260 ℃ 程度ですが、PLA / PETG などで 220 ℃ 程度で使用していても高温部分に PTFE チューブが直接触れる全通ヒートブレークだと PTFE チューブが変形・劣化して詰まってしまう現象が多発します。そのため高温部分には金属部品しかないフルメタルヒートブレーク・フルメタルホットエンド化すると PTFE の劣化によるトラブルが回避できてメンテナンス性が大幅に向上します。
私は「まろやか」の愛称でおなじみの Mellow 製の NF-DDG-WIND を使っています。こちらの製品はエクストルーダとホットエンドが一体化したもので、標準でフルメタルヒートブレークが付属するので上記の改造がいっぺんに可能です。しかも安いし減速ギアがついていて押出トルクが向上してフィラメント送り制御の品質が向上します。
BL-Touch の導入 【★★★】
何も考えずに絶対にやったほうがいいです。
BL-Touch もしくはそれの互換品の 3D Touch などの接触センサを利用して、自動でメッシュベッドレベリングを行います。プリントベッドは平らなように見えますがどうしても微妙に歪んでいたりするので、いくらベッドのレベリングをネジで調整してもなかなか Perfect First Layer にはならなかったりします。
BL-Touch を導入することで、この微妙な歪みを計測して印刷時に補正することができ、3D プリントの最初の難所である 1 層目のベッドへの定着を安定させることができます。BL-Touch を導入してからはベッドのレベリングに気を使う必要が全然なく、印刷の失敗もほぼなくなりました。間違いなく導入すべきです。
BL-Touch の導入はプリンタとファームウェアによって違うので、それらの導入ドキュメントを読んでください!(丸投げ)
ヒートベッドの断熱 【★★★】
ヒートベッドがそのまま露出している場合は断熱してあげると昇温が早かったり消費電力を減らせたりちょっとよいかもしれない。手間もコストもかからないのでとりあえずやっておいていいと思う。
使ったのは
これをヒートベッドの配線やネジを避けるように少しだけカットして貼り付けるだけ。
ヒートブロックのシリコンソックス 【★★★】
超簡単だし安いし絶対やるべき。ヒートブロック温度が安定する。
ヒートブロックをアルミから銅にする 【★★★】
お安い標準のヒートブロックはアルミ製ですが、アルミは柔らかくネジ山が潰れやすかったり、同一体積であれば熱容量も銅に比べると小さいなど必ずしもヒートブロックに適した素材ではありません。安いけど。
銅のメッキ品のヒートブロックはネジ山が潰れづらく熱容量もアルミに比べて大きくなるため印刷に非常に適しています。ちょっと値は張りますが、お手軽に品質向上とプリンタの安定性が高まるのでおすすめです。
E3D のもの や Triangle Lab のもの など。
フィラメント乾燥ボックスとシリカゲル【★★★】
フィラメントの乾燥は 2020 年頃から日本の 3D プリンタコミュニティではすっかり常識になりました。フィラメントが吸湿すると印刷品質に影響するため、フィラメントを乾燥した状態でいかに保管するかは重要です。適当な大きさのドライボックスにシリカゲルと一緒にフィラメントを保管するとだいぶ長く使えるようになります。それでも早めに使ったほうがいいそうですが、私なんかはこの方法で 2 年モノのフィラメントでも印刷はできています。
写真のドライボックスはこちら。フィラメントリールが 5 個 + 詰め込めばもう 1 個ぐらい入ります。
シリカゲルは A 型と B 型があり、A 型が強力に湿度を吸ってくれます。市販のものは調湿 (完全に湿度を取り切るわけではない) の B 型のものが多いので注意が必要です。私は以下の個包装シリカゲルを使っています。安いので説明は無視してドライボックスに 20 個全て突っ込んでいます。量は正義。
個包装シリカゲルの乾燥は電子レンジ 500 W で 2 分程度加熱 → 冷ますを何回か繰り返すことで行っています。電子レンジで一回でまとめて長時間加熱すると不織布が溶けてしまうのでこまめに加熱 → 冷却を繰り返すのが重要です。
フィラメントの真空保存バッグ 【★★★】
上でフィラメント乾燥ボックスを紹介しましたが、なんだかんだその保管方法は色々面倒だったりします。とくに直近頻繁に使う事がわかっているフィラメントをフィラメント乾燥ボックスに毎回出し入れすると、乾燥ボックス内の湿度が上がってしまって元の木阿弥になってしまいます。
そこで、フィラメントリール一つを乾燥して保管できる真空保存バッグを使うとめちゃくちゃ捗ります。
手軽に低湿度が保てておすすめです。乾燥したシリカゲルの保存にも使っています。私は以下の商品を使っていますがいい感じでした。
フィラメントドライヤー 【★★★】
上記 2 つはフィラメントをどうやってできるだけ吸湿させないかというパッシブな対応でしたが、ある程度水分を吸ってしまったフィラメントを加熱乾燥させるアクティブな対応がフィラメントドライヤーです。私は eSUN eBOX を使っていますが、amazon.co.jp だとひどい転売価格?で販売されているのでリンクの Aliexpress の公式ストアで購入するのがいいでしょう。
もしくは Amazon で買える SUNLU のものでもいいかもしれません。SUNLU のやつは購入したもののまだ使えていない…
フィラメントドライヤーは加熱するだけなので、内部にシリカゲルを入れると吸湿もできるようになります。こういうときに上記の小分けパッケージが便利です。
また、ドライボックスにしろフィラメントドライヤーにしろ、湿度がわからないと管理できないので適当な湿度計をつけておくといいかと思います。
安物なので一つ一つの精度は当てにならないので、必ず 1 箇所に 2 個以上配置するようにしています。また、ある程度マスターになる信頼できる湿度計をいくつか買って基準にするといいです。
私はこの辺を一応参考に置いています。
OctoPrint + Klipper 導入 【★★☆】
Raspberry Pi による Web インターフェースで 3D プリンタが制御できる OctoPrint と、OctoPrint と連携して Raspberry Pi 上で動作する 3D プリンタ制御ソフトウェア Klipper を導入すると、PC / スマホから 3D プリンタを制御できて作業性が大幅に向上するだけでなく、Raspberry Pi の潤沢な計算資源による高度な 3D プリンタ制御ができます。
Marlin に代表される組み込み型の 3D プリンタ制御ソフトウェアは、組み込みの貧弱なプロセッサとメモリで動作しなくてはならかったり、Marlin の設定を変更するために 3D プリンタの EEPROM を書き換える or そもそも Marlin 自体をソースコードを変更してビルドし直す必要があったりとチューニング・保守性に難があります。
それに対して Klipper なら豊富な計算資源を利用した高度な制御ができたり、設定も Raspberry Pi 上の config テキストファイルを書き換えるだけでよかったり、利便性が向上します。Klipper では ringing と呼ばれる 3D プリンタの共振周波数による印刷物表面の波打ちをキャンセルする Input Shaper や、3D プリンタ自体の歪を補正する Skew Correction などが利用できて印刷品質の向上が期待できます。
導入はちょっと面倒ですが、お金のかからないカスタムなのでやってみてもいいと思います。
ヒートベッドのバネ鋼化 【★☆☆】
Anycubic i3 Mega はガラスベッドなのですが、その上に粘着シートのついたマグネットシートを貼り付けて、バネ鋼を乗せるだけのお手軽改造です。ガラスベッドは印刷を繰り返すとどうしても傷などの劣化が印刷物に写って気になりますが、バネ鋼なら単価も安く交換も簡単で印刷物の取り外しも楽ちんなので運用コストが激減します。
とはいえマストというほどではないかも?あれば便利ぐらいの感じです。
写真のバネ鋼はこちら。マグネットシートも付属しているのでこれだけで改造ができます。
モータードライバ交換 (A4988 → TMC2208 / TMC2209) 【★☆☆】
モータードライバを静音なものに交換する。意外かもしれないけれど ★ 1 つ。
たしかに静かになるが、印刷品質が上がるわけではないし、TMC2208 / TMC2209 は排熱も大きく脱調しやすかったり、StealthChop だとモーターのトルクが足りなくて吐出量が安定しなかったり、そもそも導入の際に基準電圧を設定しなきゃいけなかったりと意外と面倒が多くコントロールが難しい。モータードライバ交換は当たり前みたいな空気もあるけれど、無理してやらなくてもいいとは思う。とはいえ A4988 はそれなりにうるさいけど…
Anycubic i3 Mega の場合 TMC2209 を利用すると特に設定等せずそのまま差し替えるだけで SpreadCycle モードになるのでトルク・発熱の問題を回避できる。TMC2208 の場合、One Time Programmable Memory で StealthChop から SpreadCycle に変更することをおすすめします。これがちょっとめんどい…
最近は標準で TMC の静音ドライバが乗っていることも多いためそもそも気にしなくてもいいかもしれない。
モータードライバ冷却ファン交換 【★☆☆】
上のモータードライバ交換で発熱量の大きいモータードライバに交換した場合は必須。静音化にも。これは Anycubic i3 Mega の話ですが、モータードライバ冷却ファンがうるさい・性能が低い機種の場合は変えてみるのはいいと思います。
使った静音ファンは
大型静音で風量も一応あり薄型でケース内に収まるものがこれだった。
おわり
2020 ~ 2021 年にかけて 3D プリンタの改造を通して 3D プリンタに対しての理解がだいぶ進みました。今の所上記の改造でだいたい納得できる品質になっています。
最近では 3D プリンタが安価に入手できるようになりそれらの印刷品質もかなりよくなっていますが、そうは言ってもコストカットの問題なのか印刷トラブルの原因になる部分が結構残っています。この記事が安価な 3D プリンタの押さえるべき改造ポイントのガイドとして役立ってくれるとうれしいです。